@kyanny's blog

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ビッグデータ・コネクト

藤井太洋の作品を読むのは三作目だが、これまでで一番パッとしなかった。駄作とまではいかないが凡作かな、と思った。

やはり「Gene Mapper」が最も強く印象に残っている。「農作物のマークアップ」という設定は難解だったが、そのアイデアには度肝を抜かれたし劇中の情景も鮮やかに眼に浮かぶ、夢中にさせる文章だった。

「オービタル・クラウド」もアイデアは面白く、ボリュームも増して読み応えがあったが、Amazon のレビューで指摘されていたように、ストーリーは御都合主義すぎてやや白けた。タイトルはとてもかっこいい。

それらと比べて「ビッグデータ・コネクト」は、社会派っぽさを織り交ぜているもののスケールが小さく、エキサイティングな内容とは言えなかった。「外字とワイルドカード」のプログラムのあたりは細くてさすがだと思ったが、真相はいろいろ無理矢理感があるし後味も悪かった。

タイトルにもある「ビッグデータ」の作中での定義がちょっと変な気がするのも気になった。自分の理解では、これまで技術的な課題のため記録できなかったり、取るに足らないと思われていたデータを集めて分析できるようになった結果、量が質に転化してデータの価値が増した、というのがビッグデータなのだと思っていて、最初から膨大なことが自明な個人情報データをもってしてビッグデータでござい、というのは言葉足らずすぎやしないか、と思った。

ただ、世間一般の感覚はそんなものなのかもしれないから、むしろズレて(スレて)いないぶん、大衆小説としてはあれでいいのかもしれない。

ビッグデータ・コネクト (文春文庫)

ビッグデータ・コネクト (文春文庫)