狂った正義感に基づいて介護老人を大量殺人した介護士を描いた話。相模原障害者施設殺傷事件を彷彿とさせるが、原作小説「ロスト・ケア」はこの事件より前に発表されたので無関係。
松山ケンイチは「正しく狂った狂信者」斯波をとてもうまく演じていた。楽な仕事であるはずはなく、介護と生活に追われる家族の姿も目にしてなお笑顔と余裕を絶やさず対応する斯波は異常で、その異質な安定感は「必ず救済される」という揺るがない信念あればこそだったのだ、ということが観るにつれてわかってくる展開は腹落ち感があった。
一方、長澤まさみ演じる女検事は、ひどく不安定な人物像で、斯波の噛ませ犬程度の存在感しかない薄っぺらさだった。クライマックスの独白シーンは、まるで信仰宗教に洗脳される最後のプロセスを見せつけられているかのような気味の悪さだった。そのせいで、斯波の「正義」が美化されすぎていると思う。
作品全体として「正義」に疑問を投げかけるバランスは取れてはいる。41人目の遺族と42人目の遺族の対照的な「その後」がわかりやすいが、ラストシーンの斯波の表情からも、「斯波は最後にもう一人救ったのか、それとも初めから誰一人救ってなどいなかったのか」を視聴者に問いかけるような余韻が感じとれた。