@kyanny's blog

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ここ数ヶ月携わっていた仕事がようやく日の目を見た。大きなトラブルもなく、おおむね無事にリリースを迎えられて良かった。

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リリースまでの道のりは険しかった。受験サプリをQuipperプラットフォームに移管するという、リクルートグループ入りを果たしたからこその一大プロジェクトで、Quipperの真価が問われるといっても過言ではなかった。当然、プレッシャーは大きかった。

春、買収後の「これからどうなるんだろう」という不安な時期にプロジェクト自体はひそかにキックオフしたものの、(主に親会社側の情報統制が理由で)会議の内容やプロジェクトの状況は一部の幹部スタッフにしか知らされず、夏ごろまでは思うように手を動かし始められず、今思えばずいぶんと時間を無駄に過ごした。このツケは冬にきっちり払うことになった。

初夏のころからはじめた採用活動が実を結び、秋ごろから仲間も増え、プロジェクトの体制も整ってようやくやるべきことが見えてきた。この時点で親会社のプロジェクト関係者のほとんどとはまだほぼ面識がない状態で、お互い手探りでコミュニケーションしながらやり方を学び、距離を縮めていった。開発も軌道に乗り始めたが、ゼロからの新規開発ではないので変えられない仕様が多々あり、整合性を保ちながらの開発に苦心した。頼りにしていた同僚が会社を離れてしまったのも痛かった(みんなそれぞれ事情があるので仕方ないのだが)

冬になるともう「待ったなし」といった感じで、相当切羽詰まっていた。休日出勤もしないと間に合わないくらい忙しくなって(当然代休は取れるが)、かなりブラックにならざるをえなかった。ずいぶん無茶なペースだったが、結局ぎりぎりまでペースダウンはできなかった。一方で、早い段階から「これは相当厳しいぞ」という心構えができていたので、みんな何事も先回りしておく堅実で丁寧な仕事をするようになり、リリース数日前の段階で炎上するようなデスマにならなかったのは幸いだった。

このプロジェクトに関わる上で、個人的に「ヒーローになろうとしない」ということに気をつけた。ずらせない納期、増やせない人員、これ以上減らせない仕様と三拍子揃ったミッションクリティカルなプロジェクトを前にすれば、つい悲壮感に浸って「俺がやらねば誰がやる」と格好をつけたくなるものだが、悲しいかな自分にヒーローの素質はなく、凡人ひとりが過労死するほど働いたとしてもどうにかなるような規模の仕事でもない。であれば凡人にできる最善を尽くそうと考えた。

チームが最高のパフォーマンスを発揮し、それを維持できなければこの長丁場で難易度の高いプロジェクトを成功させることはできない。チームのスループットを高く保つために、レビューや雑多なヘルプ(質問にすばやく回答するなど)を意識して多くこなすようにつとめた。自分の担当するタスクはもちろん人並みにちゃんとやるが、一人で多くの仕事を抱え込もうとせず、進捗が思わしくなければ恥も遠慮もなくあふれたタスクを引き取ってもらった。チームにとって最大のリスクは自分がパンクしたりボトルネックになることだと考え、それだけは避けた。

コードはいろいろ書いた。課金部分、ユーザー登録部分、管理画面、その他いろいろ。おおむねだいたいのビジネスロジックはまぁまぁ把握できているかなという感じだが、ノータッチで全然わからないコンポーネントもいくつかあるし、インフラ部分は別チームの担当だったこともあり、まったくキャッチアップできていない。ビジネスロジック部分は「リーダブルコード」的な文脈でみるとプログラマの腕の見せ所ともいえるので思っていたほど面白みに欠けるとは感じなかったが、技術的にはこの数ヶ月で何ひとつ新しい挑戦ができず(そんな余裕は仕事でもプライベートでもなかった)すっかり「なんのスペシャリティもないひと」に成り下がってしまった。この数ヶ月やってきたことはアウトプットしづらいことばかりだし(「シングルページアプリケーションをソフトバンクペイメントサービスと接続する開発のノウハウ」なんてお題で発表させてくれる技術カンファレンスなどない)このまま埋没していってしまいそうでため息がでる。

なんだか暗い振り返りになってしまった。プロジェクトは(まだ道半ばではあるものの)成功したし、事業は日本でも海外でも好調だし、そのおかげで給料もあがったし、会社員としての仕事のうえでは充実して実りと学びの多い数ヶ月だった。プロジェクトというものはどのように運営すればうまくいくのか、失敗しないのか、見事なディレクションでその秘訣をまざまざと見せつける敏腕プロジェクトマネージャー兼プロダクトオーナーの仕事を間近で見られたのも大いに勉強になった。そのぶん個人としての活動をだいぶなおざりにしてきてしまったので、地道に積み上げて挽回したい。