兵庫県知事選の結果には驚いた。日本社会の思想的分断が、ついにリアルの政治の世界にまで影響を及ぼすようになったことに。
そんなに関心を持って追っていた話題ではなかった。知事選の日程すら把握していなかった。兵庫県に所縁もないので件の元知事の手腕や実績の本当のところもわからない。
ただ、パワハラ疑惑の真偽はともかくこのご時世にハラスメントで大々的なスキャンダルになったこと。そして何より人が亡くなっていて、その件について本人の関与と責任がどの程度あるかはともかく、一般的に期待されるレベルの謝罪の姿勢を見せなかったこと。これはもう理屈ではなく情緒的な部分で、日本人は彼の立ち居振る舞いを許さないし、罰として再選させないだろう。そういう審判が下るだろう、というのがおれの感覚だった。
しかし結果は開票即当確が出るレベルの圧勝。七割が実績を支持したとも、SNS の活用が功を奏したともいわれているが、信者とアンチの激しい対立と分断があった、いやいまでもあるということに、つい先日のアメリカ大統領選が重なった。
アメリカでも熱心なトランプ支持者のグループはいわゆる「目覚めた」人たちで、都会のリベラルエリートたちとは分断された世界を生きている、などといわれる。日本でも同じ現象が起きつつあり、実際に YouTube で陰謀論めいた動画にハマったり、胡散臭い新興政党にハマったりする人も後をたたないと聞くが、それはあくまでごく一部の SNS 中毒者とか、怪しいインフルエンサーの信者とかに限られる、という認識だった。
アメリカ大統領選ですら、どこか現実味の薄い、「誰がなっても自分に致命的な影響を及ぼすものではない」、まさに遠い国の出来事という感覚だった。だが、日本の一都道府県のトップを選ぶ選挙の結果が、いかがわしいアジテーターの SNS キャンペーンに相応の影響を受けたらしいこと、そして「目覚めた人たち」の言い分とそうではない人たちの言い分とどちらが真実なのか確信を持って判断できないくらい情報が錯綜し、マスメディアの信頼が揺らいでいることは、情報操作による社会転覆の可能性が半径メートル単位の身近に迫ってきた感じがして、とても気味が悪い。
おれはもちろん「目覚めた」人たちが信じているらしい、「パワハラはなかった、元知事は既得権益を守りたい勢力に嵌められた」という主張を信じないけど、もし自分の身近にそちら側の人がいたらどのように接すればいいのか、ちょっとすぐに思い付かない。絶句してしまうと思う。
社会の分断は、確実に社会を不安定にし、暮らしの脅威になるだろう。その社会から隔絶された安全地帯に引き篭もるほどの特権や経済力は持ち合わせていないので、どう対処していくか自分で考えていかないといけない。まずは社会の安定維持に微力ながら協力すること。そして、いざ分断に直面したとき、どう振る舞うかの準備、心づもりをしておくこと。いますぐ何か具体的なアクションが必要なわけではないけど、一つの大きなテーマとして頭の片隅に置いておこうと思う。