@kyanny's blog

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ウェブオペレーションを読んだ

発売から遅れること一年、ようやくウェブオペレーションを読んだ。

この本はウェブサイトの運用にまつわるさまざまなトピックを扱ったエッセイ集だが、アプリケーションプログラマにとっても得るものが多い。キャパシティプランニングや監視など、普段の仕事では馴染みの薄いことがらについて初歩的な知識を身につけるのに向いている。もっと抽象的な、姿勢や考え方について述べたエッセイも多くあり、目指すエンジニア像のお手本集としても読み応えがある。

ぼくが特に良いと思ったのは四章、十二章、そして十五章だ。四章は「リーン・スタートアップ」で一躍時の人となったエリック・リースによる継続的デプロイの話だが、思想面で見習うべき点が多かった。個人的に「リーン・スタートアップ」のブームには懐疑的で、大げさにもてはやしすぎじゃないかとちょっと白けているのだけど、エリック・リースその人自身はさすがに経験豊富な起業家であり技術者でもあるだけに含蓄のある内容だった。

十二章は知る人ぞ知る MySQL の世界的なエキスパートであるバロン・シュワルツによるリレーショナルデータベースの扱い方についての話だ。リレーショナルデータベースにまつわる種々の技法について、個人的な経験に基づいてはっきりイエス/ノーと知見を述べている。あの「実践ハイパフォーマンス MySQL」の著者でもあるこの人がそう言うならそうなんだろう、と思わせる説得力がある。例えばシャーディングは複雑すぎるので安易に手を出すな、など、言われてみればもっともなのに、ブログやカンファレンスで頻繁に見聞きするからあたかもやるのが当たり前のような気がしてしまっていることを、ちゃんと考えなおす機会を与えてくれた。

ことさら痛快だったのは「FacebookTwitter などの超有名ウェブ企業がデータベースを使い込んでいる話は注目を集めるが、ほとんどの人にとっては無関係の世界の話なので、惑わされず自分のアプリケーションに必要なことをやれ」という一言だ (原文ママではない) YAPC::Asia 2010 で nekokak さんの省サーバ運用というトークが人気を博したように、みんな頭ではわかっていることだけどついつい有名企業の有名エンジニアがやってる大掛かりなことに目を向けてしまいがちだ。夢を見すぎてぼけた横っ面をひっぱたかれて目が覚めたようなすっきりした気持ちになった。

意外に良かったのが十五章の NoSQL についての話で、 NoSQL として知られるいくつかのソフトウェアを取り上げてそれぞれの特徴を手短に紹介している。パフォーマンスの比較などには触れていないが、単純なベンチマークの数字にばかり目を奪われるとむしろ特徴を見極める邪魔になることもあるため、この構成で良かったと思う。個人的に学ぶところの多い章だった。例えば、 Redis がさまざまなデータ型をサポートしているのは MongoDB とはちょっと違うよな、でも同じ NoSQL なのか、というように、違いがよくわかってなかった点を整理できた。 Riak のように名前を聞いたことがあるだけで特徴もわかっていなかったものについて、ほんのさわりだけとはいえ知識を得ることができたのも収穫だった。

PDF 版ではなく紙の本のほうを買ったが、薄くて軽いので持ち運びやすく、毎日の通勤でも負担にならなかった。三千円を切る価格設定も財布に優しい。 PDF 版ならばさらに安く買える。もうとっくに読んだよ、というひとが大半だろうけど、もし読みそびれている人がいたら、今更だけどおすすめします。