@kyanny's blog

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勝負論 ウメハラの流儀

ウメハラの前の本も良かったので読んだ。

勝ち続けるとは文字通りの「百戦百勝負けなし」という意味ではなく、自分が成長し続けるということ、ひいては成長を通じて幸せであり続けることであり、成長できているなら一時の勝負での勝敗にこだわる必要はない、という考え方は一言でいえば「悟って」いると思う。

将棋棋士の羽生善治の本にも同様のことが書いてあったことを思い出す。将棋でも格闘ゲームでも、真剣勝負の世界でトップレベルにいる人たちの考え方、哲学というのは同じようなところにたどり着くものなのかもな、と思った。

格闘ゲームの世間一般からのイメージを向上させたい、というモチベーションはヨーヨー世界一でシルクドソレイユの演者にもなった BLACK と同じだ。彼はその情熱が認められ TED でスピーチとパフォーマンスを披露してもいる。ウメハラにも TED の舞台に立ってほしい。

勇気付けられる言葉やためになる考え方が随所にあり、ハイライトした箇所がたくさんある。特に強く印象に残ったのは、

  • セオリーを疑って何度も壁にぶつかりながら試行錯誤の末に基礎を体得したひとのほうが、そういうプロセスを経ずセオリーを効率よく押さえてさっさと先へ進んだひとよりも、高いレベルに到達した段階においては結局は強くなる
  • 成長しているかどうかは自分自身の内面的な評価のみで判断されるもので、対外的な評価で判断してはいけない。自分の成長だけをみていないと、かえって成長できない
  • 自分について自分以上に真剣に考えているひとはいない

だが、悟ってしまったひとの言うことは俗世の凡人にはついていけないな、と思わせられる部分もなくはない。

一番ひっかかったのは「大舞台で負けたからといって、それまでしてきた努力が無駄になるわけでも、自分自身の価値が損なわれるわけでもないのだから、気にすることはない。外野が何を言おうと『知るか、バカ』と思えばよい」という意見で、しかし対外的な評価と完全に切り離された社会生活というものはありえないし、かといって山奥で隠居するわけにもいかない。

オリンピック選手がメダルを取れなくて落ち込む、という例を引き合いにだしてもいたが、四年に一度の大舞台で、どんなに優れた選手でも人生で数回しかチャンスがなく、ひょっとすると最初で最後かもしれない、そういうシチュエーションで負けたのを「成長できているのなら良し、落ち込む必要なし」と割りきるのは無理がないか、と思う。

ただしウメハラの考え方は「プロ」ゲーマーとしての立場からのものだから、オリンピックのようなシチュエーションにそぐわないのかもしれない。オリンピックがアマチュア向けの一発勝負の場だとすれば、プロはリーグ戦とかでシーズンを通して安定して高いパフォーマンスをし続けることを要求されるものだからだ。プロは「次はもっとうまくやる」と、次があることを期待して良いかわりに、プロであり続ける限り成長し続けることを要求される、ということか。

勝負論 ウメハラの流儀(小学館新書)

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