@kyanny's blog

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Increments は和製 GitHub の夢を見るか?

Quipper では日本オフィスの開発者を中心に、 Qiita::Team を導入して社内のドキュメント共有を行なっている。書かれる内容は日報が多いが、技術 Tips の共有やチャットでは適切でない込み入った技術的問題を解決する議論の場としても活用している。

なぜわざわざドキュメント共有?ていうか日報書くなんてダサすぎじゃね?そう思ったあなた、日報を見くびっちゃいけません。上手に運用すればナレッジシェアやコラボレーションのみならず、チームビルディングにも役立つんです。

上手に運用された日報には前例がある。ペパボの社内 SNS であるタンパクがそれだ。毎日スタッフ全員が日報を書くきまりなのだが、本来の目的である業務内容の記録以外に一言コメントを書く欄がある。定型文で済ます人もいればブログ並の長文を書く人もおり(それはわたしです!)、これがそこらの SNS なんかよりよっぽど面白いコンテンツなのだ。

社内 SNS は当然ながらクローズドな場だ。前提や文脈を共有した一部の人たち向けに単刀直入なことを投げかけられる。コミュニケーションのロスは減るし、社外秘の情報を含むのでブログや StackOverflow に書けない困りごともゆるく相談できる。なにより、同じ組織に所属して毎日大半の時間を一緒に過ごしている人たちが、どんなことを考えているのか垣間見えるのが面白い。普段仕事で関わらない人たちとの心の距離が縮まる気がする。

そんなわけで、「タンパクの日報」を Quipper でも再現したかった僕と @banyan は、入社直後からコラボレーションツールの導入に取り組んだ。 @masatomon の「まず何かトライアルしてみて良さそうならそのまま使いましょう、選定やら何やらは任せます」という丸投げ心強い一言に背中を押され、 Yammer を検討してみたり Google+ を使い始めてみたりと試行錯誤のさなかで、ふと思いついたのが Qiita::Team だった。

Qiita::Team はシンプルなドキュメント共有サービスだが、僕たちが最低限必要だと考えている要件を満たしていた。

  1. 全ての投稿をプライベートグループの参加者のみに公開する、アクセス制限の仕組みがある
  2. 投稿がユーザーアカウントにひもづき、特定のユーザーの投稿を一覧表示できる
  3. それなりに表現力のあるマークアップ言語でドキュメントを記述できる
  4. 他のユーザーの投稿にたいしてコメントがつけられる
  5. ドキュメントの全文検索ができる

要するに社内ブログが欲しかったのだ、 SNS のようにリッチなものではなくて。この要件に、 Qiita::Team はぴったりだった。

Qiita::Team を導入して一月半ほど経ち、「日報」タグのついたドキュメントは 120 記事を超えた。総数は 200 記事近くあるだろう。参加メンバー数 10 名ほど(うち半数がアクティブに書き込む)でこのペースは、なかなか使い込んでいるのではないかと思う。必要な要件は満たしているとはいえ、機能の不安定さや価格の割高感など不満も少なくない。にもかかわらず、他のツール・サービスに乗り換えようとしないのには理由がある。一言でいえば、忠誠心だ。

Quipper は出来る限り「自前でやらない主義」を採用しているとはいえ、金銭感覚はそれなりにシビアだ。価格に見合っていないと感じたら即座に利用をやめる。少額であっても無駄遣いはしない。だから Qiita::Team の価格についても、本当に価値に見合っているのか?そもそも有料サービスを導入してまでやる意味があるのか?という議論があった。なんとしても Qiita::Team を使いたかった僕が半ば押し切る形で使い始めたのだが、なぜ使いたかったのかといえば Qiita のなかのひとたちを応援したかったからだ。

Qiita を開発・運営している Increments という会社は、 @yaotti さんをはじめとして技術者コミュニティで名の知れた人たちが参加しているスタートアップ企業だ。僕はなんとなく Increments そして Qiita に、あの GitHub に似たにおいを感じている。開発者が開発者のためのサービスを作り、開発者に愛されて成長していく。良いメンバーがさらに良いひとを呼び込み、組織が徐々に大きくなっていく。まるで GitHub のようじゃないか。いや、ひょっとして本当に GitHub のような、誰もが憧れる開発者の理想郷のような組織とサービスになるんじゃないだろうか。

30 過ぎのおっさんは未来ある若者の背中に夢を見てしまうもの。ならばせめて歳相応の応援の仕方をしてやりたい。できれば気持ち悪い長文ブログを書くんじゃなくて、彼らの事業に対価を払って貢献したい。ちょうどそんな風に考えていたので、渡りに船とばかりに飛びついてさっさと使い始めた、というわけだ。この憧れと妄想とお節介が入り混じった複雑な感情は、ブランドに対する忠誠心と言い換えられるだろう。多くの開発者が、単に便利というだけでなく、 GitHub を愛し、彼らのサービスを使うことに強くこだわるのと同じ気持ち。先日書いた「他のスタートアップと一緒に成長していく」という考え方にもつながる。

先日 Qiita::Team のプランをグレードアップした。利用継続を検討した際に決め手となったのは、「Google+ ではうまくいかなかったのに Qiita::Team ではうまくいっているということは、やっぱりそれなりの理由があるのだろう、であればせっかくワークしているものをみすみす止めてしまうことはない」という意見だった。チームメンバーに日報の利点を説き、自ら毎日書き続けたことで望みどおりの「上手な日報運用」を手に入れつつある、ともいえる。

まだまだ課題はある。ドキュメント共有は日本人だけでなく、いずれはロンドンオフィスで働くスタッフも巻き込みたい。そのためには僕らが英語で書く必要があるし、 Qiita::Team にもフィルタリング機能など国際化対応の充実が求められるだろう。ヨーロッパ人に日報という日本的な習慣を理解してもらえるかという懸念もある。でも、それはそれ。いまはいちユーザーとして、好きなサービスをまっとうな方法で応援できることを喜びたい。