@kyanny's blog

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WebSig1日学校2011に参加してきた #websig1ds

ペパボ(paperboy&co.)が協賛しているWebSig 1日学校2011というイベントに参加してきた。運営・スタッフの皆さん、ありがとうございました。以下、感想など。

サーバサイドエンジニアクラス・非デザイナー向けの選択授業を選択。プログラマだから、というのもあるけど RockYou Asia COO の石塚さんのキャリアについての話を聞きたくて参加したので。

一時間目 サーバサイドエンジニアのための算数 by @zaki

エンジニアとしてどのようにスキルアップしていくのか、具体的にどういうことを学べという話ではなくて、よりメタな話だったと思う。学校でやってるだけあって「授業」とか「算数」とか学校っぽいキーワードだらけで、授業内容もそれに沿ったものを、というお題があったのかなかったのか、「算数」の授業は用語の扱いに苦労しているようだった。最初の授業だったこともあり、くそ真面目にメモを取り過ぎてまとめ切れないのでざっと書きだすと、

  • 定理(法則)とは、「だいたい誰がやっても同じ結論にたどり着く」一連の思考プロセス・実行手順のこと
  • 例: load average が高い -> runnable queue が原因 -> システムコールが原因のことが多い -> PID 調べて strace -> 詰まってるシステムコールがわかるので「DISK I/O がボトルネックだ」など結論が出る
  • 熟練したエンジニアは最初から strace を叩く、毎回このような思考プロセスを最初からたどっているわけではない
  • このように、既知のノウハウ集を知り、自分はそのあとから始めることではやく問題解決できる
  • 関数(レシピ)とは、上記の定理を組み合わせて特定の状況下における問題を解決する手法のこと
  • 定理(法則)と同じだが、もう少し構成要素となる技術は広く対象は狭い、特化した方法論をさす
  • レシピはケースバイケースで汎用的ではないが数を増やしていけば自分専用のカタログ、ポートフォリオになる
  • まずは人からレシピを教わる、盗む
  • 次に自分で作ってみる、レシピを作れるひとは先端を走っておりそれだけ優秀、強いといえる
  • 作ったものを人に教える、ダメだしされることもあるが批判ではなく指摘と受け止めて改善する
  • レシピではなく法則をつくれればなお良いがそれができるのはほんの一握り
  • 有用な法則ですら知らないエンジニアも 50% くらいいる、法則を多く知っているだけで上位 10% 20% にはなれる、定理をつくれるなら本当のトップクラス
  • できるだけ「一般解」を求めよう
  • 最初は特殊解としてのレシピしかつくれない、それをどうすれば一般化できるのか?を常に考えること、これを真面目にやる人ほどエンジニアとして強くなれる
  • 「考えぬく」というテーマ、 Tips ではなくこれから先ずっと使える手法を身につけることが大切、特定の解を求めるだけでなく解を求める方法を考えられるようにしよう

という感じで、一言でいうと「考え方について考える」という内容で、とても良かった。

二時間目 サーバサイドエンジニアのための国語 by @ryonations

一番聞きたかった話。いやー期待通り、期待を超えた内容で行って良かった。シリコンバレーのエンジニア事情(主に待遇面)、差別化要因の話、後半はディスカッションというか差別化要因について聴講者を交えて話す、という構成。これも箇条書きで。

  • glassdoor.com というサイトで、匿名でシリコンバレーの企業の年収がわかる、ほぼ正確な数字と考えて良い
  • 日本円にして、額面で、新卒 560万 中堅 800 万 シニア 1200 万が相場
  • ただし、アメリカは税金が高い + 住宅費の融通か効かない(デカくて広い家しかない)、車社会で通勤手当という概念がない、などのため、最終的に自由になるお金は日本と大差ない
    • シリコンバレーでは、額面 800 -> 税金 30% で手取り 560 -> 諸経費引いて残りが 272
    • 日本では、額面 500 -> 税金 20% で手取り 400 -> 残りが 280
  • 「お金を目当てにシリコンバレーに行くと幻滅するかもしれません」
  • アメリカでは「昇進しない限り昇給しない」、昇進しない == 仕事内容が同じ == 同じ仕事には同じ額しか払わんよ、というロジック
  • だから転職が多い、生涯転職回数は日本 2.6 に対してアメリカ 8.6、平均勤続年数 4.4 年
  • 面接は「日本以上に学歴重視」、ただし出身校のレベル(知名度)ではなく専攻が重視される
  • たとえ名門大学出でもコンピュータ専攻でなければプログラマとして採用されることはない
  • 新卒でも最終学歴(学士・修士・博士)の違いで初任給に大きな差がでる (200 ~ 300 万)
  • 大学院は「ダーマの神殿」、専攻を変えるために、まさにキャリアチェンジしたいひとが行く
  • 今、何ができるのか?が重視される、性格・キャリア志向は二の次
  • ハーバード卒で育てれば優秀なプログラマになれそうな人、よりも、今すぐプログラムをかける人を採用する気風
  • 日米エンジニアから学ぶキャリア考察、三人のエンジニアの実例紹介
  • あなたの強みは何ですか?他の人と比べて、隣に座ってる人に比べて
  • 今後、同じようなスキルセットを持った人と競合する、決め手がなければ選ばれない(採用者に)
  • 自分は他の人と比べて、基本的な開発スキル以外に何ができるのか?を考えていくことが重要
  • 差別化要因の例
  • プログラマ、スキルセットは PHP/MySQL/memcached, ハイライトは「PHP コミッター」「MySQL カンファレンススピーカー」
  • スキルセットは珍しくないが、レベルが非常に高く、なおかつ第三者からみてレベルの高さがわかりやすい
  • セキュリティエンジニア、スキルセットは暗号化技術やセキュリティプログラミング、ハイライトは「暗号化処理で博士号取得」
  • 暗号化という専門的な知識を持っており、なおかつ博士号という誰からみてもわかりやすい形でアピールできる
  • フリーランサー、スキルセットは LAMP/sysadmin/Flash/AS3/Silverlight, ハイライトは「Flash/AS3 と Silverlight についての著書あり」
  • サーバサイド・バックエンドからフロントエンドまで手広いスキルを持っており何でもできる、なおかつフロントエンドについては著書があり専門性をアピールしやすい
  • 考察
  • 優れたエンジニアは基本のスキル以外に他と差別化する何かを持っている(誰もがコミッターになれるわけではない)
  • 日本で勝負するエンジニアとして、どういう差別化要因が考えられるか?世界を相手にするとどうか?
  • あなたにしかない、差別化要因は何ですか?
  • あまり良くない例: コミュニケーション能力があります、採用者からみてわかりづらい、本当にあると思ってもらえない
  • 差別化要因を手に入れる、それをわかりやすくアピールできるようにする、他の人にどう伝えるのか
  • 差別化要因として考えられるものはいろいろある、技術以外でも語学とか
  • 一言で説明できる・一目でわかる形にするのがベスト、ウェブに公開しておくのも良い (ブログ、 Slideshare, etc.)
  • 自分がいまいるのと違う業界で今の経験を活かす、これも差別化要因になる
  • 例: ゲーム会社で制作経験があるウェブエンジニア、そんな人がいれば今すぐ採用したい(ソーシャルゲームの会社なので)
  • まとめ: 差別化要因を考える、それを他の人に対して明確に示せるようにすることが重要

はてブとかでよく人気?が出る「日本オワタ、海外脱出せよ」的な論調のブログがいかに一面しか語っていないかがわかる、非常に具体的な内容だった。差別化要因についても、「単に優れているだけではダメ、いかに優れているかを伝えなければ」という点を強調していたのが印象的だった。それから、石塚さんの話し方や物腰にも圧倒された。特に感銘を受けたのは、ディスカッションのときに組み込み系エンジニアの方が「仕様がわからないソフトウェアがあればリバースエンジニアリングして挙動を調べたりもする、これは差別化要因になるか」と言ったときに「私は組み込み系に詳しくないのでよくわからないが、それは組み込み系エンジニアの世界ではよくあることなのか?(もし珍しいなら差別化要因になる)」と聞き返したことで、先生という立場で話しているのに自分が知らないことについては間髪入れずに「知らないので教えてくれ」と言える、これはなかなかできないことだしその姿勢こそ見習いたいと思った。ちなみに「僕は Perl/Ruby プログラマで YAPC::Asia という Perl のカンファレンスで発表したことがあります」と言ったら「それは素晴らしい差別化要因になりますね」と言われた。やったぜ!YAPC::Asia 2011 はチケット絶賛発売中です!

真面目なレポートはここまでです(これ以降はろくなメモをとれなかったため)

三時間目 非デザイナーのための選択授業 by @yhassy

「デザイン視点のコミュニケーション術」というお題だったのだけど、何の話をしているのかよくわからなかった。非デザイナー向けの選択授業だったので、「デザイナーってこういう人たちで、デザインの中にもロジカルな部分とアーティスティックな部分があって、彼ら(僕ら)はこういうところをロジカルに考え、こういうところをアーティスティックに表現しているんだよ」という話を期待していったのだけど、デザインとはどんなものか?というかなり抽象的でつかみどころがない話をしてみたり、かたや「人を動かす、影響を与える」みたいなプロジェクトマネジメント的な話にもなったりして、正直なところ「デザイナーってよくわからないなーと思っていたけど、おれの想像以上によくわからん人たちだったみたい」という思いを強くした。もっとこう、彼らの目には物事はどのように見えているのか?とかをデザイナーじゃない人向けに説明してみる試み、とかだとおれにとっては嬉しかったなーと思う。

四時間目 共通授業:社会 by @naohidearai

「キミたちはどう生きるか」というテーマだったのだけど、この授業の内容には大いに異論があった。お金の話とか日本経済の話とか仕事の話とか、想像通り暗い見通しであるという説明があって危機感を煽るような感じなのに、グローバル化についての話のなかで「日本人は黄色人種のなかで一番有利」とかわけのわからない民族主義的主張が繰り広げられたりするし、当然辿り着くであろう「だから世界で活躍できる人材を目指すべきだし語学能力は必須」という結論にはなぜか行かずに「英語なんかよりプログラミングなどの専門能力を伸ばすことが大事」「言葉が壁となり守られる側面もあるので損益分岐点の低いコンセプトで生きれば日本の中でやっていける」と言ったりして、なんだかなーという感じだった。国や組織に期待しすぎるな、などまともなことも言っているのだけど、おれは各論一部賛成・総論反対だなと思った。

ちなみに上に書いた内容についてだけおれの意見を書いておくと、世界的に見てもはやアジアナンバーワンの座は中国と中国人のものだと思うし(海外からみたアジア事情なんてまったく疎いのであくまでイメージですよ)日本ないし日本人が韓国ないし韓国人に対してアジアにおいて何か先んじている要素があるかと言われたらもうほとんどないと思う。あと損益分岐点の話については、自分が見積もった最低ラインを保証できるかどうかすら怪しいと疑っておくべきだと考えていて、「田舎でひっそり低所得な暮らしを選べば語学なんて不要」という考えは親が地主でもなければ到底指示できるものではない。何より不信感を抱いたのは、講師は 48 歳でおれより 15 歳以上も年上、会場の大半のひとはおれと同年代だったと思うけど、この講師が「この考え方でおれならギリギリ逃げ切れる」という考えのもとに話しているんじゃないか?と思えてしまったことだ。おれには彼の主張する考え方であと 30 年安泰に暮らせるとは思えない、少なくとも大丈夫なほうに賭けはしない、リスキーすぎると思えた。しかし「考えぬく」というテーマを踏まえると、むしろ異論を呼ぶくらいのほうが個々人に考え抜かせるという点で良い授業だったと言えるのかもしれない。

五時間目 ワールドカフェ by @yoshihiro

最後はワールドカフェといって、グループワークみたいな時間だった(グループワークじたいやったことないけど)受講クラスの違うひと同士数名ずつでグループになって、ひとつのテーマを掘り下げて話していく。面白いと思ったのは、途中でグループのシャッフルがあり、さらにもう一度もとのグループに戻ってまた話す、というスタイル。シャッフルまでの限られた時間で何かしら話題を膨らませないといけないので必然的に誰からともなく話し始めるし、かといって誰かの独壇場にならないようなルールもあったりして、だんまりにならないような仕掛け・仕組みがうまく作れているなーと思った。

お題は「(ウェブの)仕事を通じて社会に提供している価値とは何か?」そして「その価値を提供するためにあなたが明日から始められる小さなことは何か?」おれのいたグループは「ウェブのもたらす価値とは人を幸せにすることである」という点で合意して、シャッフル後は他のグループで出た「ウェブはお金を生む」とか「雇用を生む」とかいう話を持ち帰ったりして、最終的に各々が自分なりに何をやっていくかをポスト・イットに書いて壁の模造紙に貼った。おれは30days Albumをより良くするための小さな機能追加のことを書いた。

閉校と懇親会

ワールドカフェ終了後、閉校までの時間は、広い体育館にみんな座っていて、アンビエントな音楽が流れていて、一日の疲れもあり、なんだか高揚感のある空間だった。なんだかよくわからないけど、やりきった!みたいなへんな達成感があった。こういう雰囲気すごくいいなと思う反面、こういう雰囲気はやばい(例えば、宗教的な要素を含んでいた場合は)と頭のどこかで警戒もしていた。最後は各クラスの先生から挨拶があったが、サーバサイドエンジニアクラスの人は誰もいなかったのがちょっと残念だった。

懇親会もけっこう盛り上がっていたように思うし、懇親会でのぼっち力に定評のあるおれでも楽しく過ごせた (実は知り合いが参加してたのでそもそもぼっちじゃなかったんだけど)最後のグループワークが良かったのか、暑いなか一日同じ場所で過ごしたせいか、場全体にゆるい安心感というか、知り合い同士っぽいネットワークができていたように感じる(WCCF で例えると細い白線がいっぱいある状態)プレゼント大会(じゃんけん)とかも盛況でいい感じだったと思う。あと、詳しくは書かないけど、意外な出会いがあって、とても嬉しかった。

以上、WebSig1日学校2011の参加レポートでした。