@kyanny's blog

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こうすれば 絶対よくなる! ​日本経済 田原総一朗×藤井聡

元旦の早朝に「朝まで生テレビ」を観ていたら京大の藤井聡という教授が一番丁寧に議論していて話もわかりやすく、しかし彼の主張の根幹をなす「MMT」がなんなのかわからず、興味を持ったので著書を読んでみようと思って、田原総一郎との対談形式になっている本があったので読んでみた。

MMT = Modern Monetary Theory(現代貨幣理論)とは、乱暴にいうと「自国通貨を発行できる政府は国債の発行(= 借金)では破綻しないから赤字が増え続けても気にしなくて良い」というもので、経済学の新しい理論である。「インフレ率を一定以下に収めさえすれば赤字がどれだけ増えても問題ない」という主張は直感に反するし、主流の経済理論とも全然違うので批判も大きいが、色々な意味で注目の理論らしい。

朝生を観てたときは「なるほど?なんかもっともらしく聞こえる」と思ったし(それは元旦の朝生で一番人間的にまともな姿勢を維持していたように見えた藤井教授の振る舞いによるバイアスもかかっていたかもしれない)、著書を読んでみてもやはりなんだか正しそうな気がする、ただ「実際にアメリカもイギリスも過去数百年というスパンで政府の借金額は増え続けているが破綻していないではないか」というのを根拠の一つに挙げていて、それは危なっかしく思えた、これまで大丈夫だったからこれからも大丈夫だというのは楽観的すぎるだろうと(もちろんそれは大衆向けのテレビ・本でわかりやすく説明するための例に過ぎず、難解で凡人には理解できない理論的な裏付けがあるのだろうけど)。そして MMT 理論に基づくと消費税の増税が悪手であり消費税の減税・一時撤廃が有効だという主張に筋が通っていることもわかった。

「プライマリーバランス」という、また聞きなれない単語が冒頭から出てきてこれはなんだと調べると、要は政府の収入(税収)と支出が黒字かトントンになるようにしましょう、ということらしい。税収より支出が多いと赤字なので国債を発行して補わないといけない。日本では何年も前から「プライマリーバランス規律の維持」という方針があって、消費税の増税の根拠もそこにある。藤井教授はプライマリーバランス規律の撤廃が最優先だと主張していて、撤廃してよい、すべきだという根拠が MMT 理論。「日本は国の借金が 1200 兆円もあって、早晩破綻する」というのは神話、デマである、政府の借金は家計の借金とは違うのだ、と説く。

この本を読んだ目的の「藤井聡という人の主張はなんだろう?」は達成できたし、MMT 理論やプライマリーバランス規律、その他周辺知識も身に付けられて大満足、正月早々賢くなって良い読書のスタートを切れた。ただ、もしこの理論が本当に疑いなく正しいのならなぜいま採用されてないのだという話で、トンデモ理論とは思えないけど批判されるだけの根拠もあるはずで、反対意見や現在の主流派の主張も知らなければ、と思った。なのでまだ手放しで支持するつもりはない。

「れいわ新選組が選挙で掲げてた公約ととても似ている」と思いながら読んでいたら、藤井教授は多くの自民党・民主党議員などにくわえて山本太郎にもレクチャーしたことがあるようだ。れいわ新選組はいわゆるポピュリズム政党で、山本太郎の露悪的なパフォーマンスと SNS での支持者の硬直した意見に辟易としていて好きではないし支持もしていないのだけど(消費税廃止も「財源どうするんだよ、耳あたりがいいばかりでできっこない政策で票だけ集めて当選しさえすればいいと思ってる政治ゴロじゃねえの」と冷ややかにみていた)、部分的にでも政策面ではまともなことを言ってたりするということか?と混乱したのだが(藤井教授は大衆を煽るポピュリストという人物像とはかけ離れているように見える。安倍政権の参与まで務めた人だし)、同じく元旦の朝生で気を吐いていた森永卓郎が山本太郎は嫌いでもMMTは嫌わないでくださいという記事を寄稿していてちょっと笑った。森永卓郎も藤井教授と同じような立場からものを言っていたように思う、財務省批判とか(財務省は解散させろ、と言ってた)。森永卓郎の著書も一冊は読んでみたい。

朝生での田原総一郎はザ・老害という感じで酷かったけど、本の中では鋭い質問をしたり、博識ぶりを発揮していて日米日中関係など経済にとどまらない議論をしていて、どこを読んでもためになった。オカシオ・コルテスとかサンダースがどういう位置付けの人なのか、とか、本筋の話題ではないのでほんの少し触れられていただけだけど、なるほどこうやって増える知識を教養と呼ぶのかな、と思った。

一点気になったのは、反グローバリズムの時代は大衆ウケする「わかりやすい」政治家が勝つ、という話の流れで、日本では古泉純一郎、橋下徹、小池百合子だと藤井教授は言っているが、なぜそこで山本太郎が出てこない?繋がりがあって批判的なことを言えない・言わないのか?と、そこだけ勘繰ってしまった。