@kyanny's blog

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ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義

Kindle ストアで見かけて、パレスチナ問題について本を一冊くらい読んでみるかと買ってみた。二部構成だが大学での講義・講演がもとになっていて、内容は大体同じなので、六割ほど読んだあと巻末の質疑応答を読んで終わりにした。強いバイアスを感じすぎて読む気が失せたのもある。

イスラエルという国が、第二次大戦後のヨーロッパで発生した大勢のユダヤ人難民問題を解決するために欧米諸国がシオニズムと結託して人工的に作った国家であること、もともとその土地に住んでいたアラブ人たちはイギリスとフランスによる植民地支配から独立を果たすどころか勝手に領土を分割させられたこと(しかもそれが国際連合の決議で採択された)など、曖昧にしか知らなかったことを知れたという点で読む価値はあった。

シオニズムが、敬虔なユダヤ教徒からはむしろ支持されていない、というのも興味深い。曰く、敬虔なユダヤ教徒は、「同胞が世界中に離散して各地で迫害を受けていることは神が与えた試練であり、神の教えに従って生きていればいつか神が救世主を遣わして我々を聖地パレスチナに帰してくれる」と考えており、したがって神が救世主を遣わしてもいないのに人間が勝手にディアスポラ(離散状態)を解決するなどというのはユダヤ教の教えに反しておりシオニストはもはやユダヤ人(=ユダヤ教を信仰する人)ではない、と。

総論として、イスラエルが相当悪い、という理解で良さそうではある。そもそもの建国の由来からしてパレスチナ人たちにとっては「あとから勝手にやってきて土地を奪い自分たちを故郷から追い出した侵略者」という位置付けだし、幾度もの中東戦争を経ての占領やオスロ合意を反故にするような入植、国際法違反?のガザ完全封鎖によって「生きながら死ぬ」環境を作り出していること、それに加えてガザへの無差別な空爆(そしてついに地上からの侵攻も始まった)など、パレスチナ側にテロ行為があるとしても、釣り合いがとれないほど行き過ぎているとは思う。

ただ、著者の立場はあまりにもパレスチナ側に寄り添いすぎ、というよりも反イスラエルすぎる。読んでいて、これはちょっと偏りすぎていないか、と気になって Amazon のレビューを読んだら案の定そういう意見もあって、自分だけじゃなかったと安心した。著者は日本の大手メディアがパレスチナ問題について正しいことを報道していない、親イスラエルすぎると非難し、ネットの「理性的でバランスが取れた」記事すらも、「この状況の中で『中立』などと言うのは虐殺に加担しているも同然だ」と痛烈に批判するが、「ハマスは民主的な選挙で支持を集めて与党になったのであり武装集団が暴力でガザを制圧したかのような報道は誤り」といいつつハマスが(武力で)ガザから PLO を追い出して制圧・支配下に置いた点には直接触れず、「アメリカが内戦をけしかけた(=悪いのはハマスではなくアメリカ・イスラエル)」と説明している。これは印象操作的に感じられ、たとえ本書の大半の部分が事実に基づく内容だとしても、こういった恣意的な部分が本書全体の信頼性を損なっている。

本書を読んだことで、パレスチナ問題が「喧嘩両成敗」ではない(そもそもイスラエルおよび欧米が勝手に始めた物語で、現在に至るまでイスラエル・欧米が圧倒的に悪いので、パレスチナ側にも非があるとはいえ度合いが違いすぎる)ことを学んだ。そのうえでやはり、複雑な歴史的経緯がある政治的な問題に関して、当事者ではないものは「正しく知る」ことが大事、かつ、それしかできないとも思う。皮肉なことに著者も「正しく知ってほしい」と繰り返し語っているが、ガザの現状を含むパレスチナ問題について知るなら【徹底解説】ハマスとイスラエルの衝突 ユダヤ人とアラブ人 パレスチナの歴史 レバノンのシーア派組織ヒズボラとは? | NHKを読んだほうが中立的で「正確」な情報を得られると思う(この記事は本書を読んだあとで「正確な」ことを知りたくて検索して見つけた)。