ものすごく良かった。とても面白かった。もっと早く読むべきだった。
「答えを出すだけの価値がある問題を見極める」「取り組むべき問題を絞り込んでから解き始める」これが大事なんだ、という論点をいきなり冒頭で述べている。言われてみれば(言われてからなら)その通りだと思えるが、初めて読んだときはけっこうな衝撃を覚えた。自分がこれまでいかに無駄なことをしてきたか気付かされた。
本書では「イシューの見極め」「大胆な仮説」「仮説に基づくストーリー」「仮説を検証する分析」「明快な結論」という順序で物事を進めていくのだ、と説明されている。その各項目の説明の仕方それ自体が、著者の提唱する「イシュードリブン」の考え方に基いて構成されている。つまりこの本は、本を読み進めるにつれて「考え方」そのものが例を変えながら繰り返しでてくるので、読めば読むほど考え方への理解が深まる、というつくりになっている。これに気づいたときはいわゆる「アハ体験」だった。
構成が秀逸だからなのか、内容そのものは小難しいところが一切なく、むしろ非常にとっつきやすい。随所にでてくる問題解決の例題はどれも身近で興味をそそられるもので、自分でも例示されている考え方をトレースしながら考える練習もできるようになっている。「お勉強」という感じのところがない。
他分野におけるフレームワークやプラクティスと通じるところもありそうだ。自分で気づいたところでいうと、ちょうど読み終わったばかりの XP に似ていると思ったのが、「いきなり問題を解き始めずイシューの見極めから行うのと、いきなりコードを書き始めず先にテストを書くのは似ている」というところと「ストーリーラインは決め打ちではなく都度書き換えて磨いていくのは、ウォーターフォール開発と違い小さい開発サイクルを素早く回してこまめにフィードバックを得て、それをもとに見積もりの精度を上げていく XP と似ている」というところ。
- 作者: 安宅和人
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2010/11/24
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Quipper に入社してもうすぐ三年になるが、この三年間で自分なりに「何が問題なのか?今本当にやらなければいけないことは何か?妥当な品質を維持しながら最も低いコストで実現するためにはどうすればよいか?」のような思考を身につけてきたつもりだ。外資系・グローバル企業だからなのか、 CEO がマッキンゼー出身だからなのか、事業への選択と集中が普通の会社とは桁違いなスタートアップという環境だからなのか、合理的な判断をする CTO のもとで働いてきたからなのか、いろいろ要因は考えられるが、問題解決の仕方が磨かれるような環境に身を置けたおかげで少しは成長できたと思っている。
しかし、もしこの本を五年前に読んでいたら、転職前からもっと良い仕事をし、もっとインパクトのある結果を出し、もっと事業に貢献できたかもしれない。少なくとも自分の仕事への取り組み方は改善できたはずだ。そう思うとくやしい。