アトランタ五輪で爆発物を発見し多くの人命を救ったにもかかわらず、英雄と持ち上げられたのも束の間、FBIとメディアに容疑者扱いされた警備員を描いた伝記映画。実話に基づく作品。
面白かった。主人公は正義感が強いがやや常識的なバランス感覚に欠けており、お人好しな性格も度を超している。FBIの捜査はそこにつけこむようで卑劣だ。
リチャード・ジュエルは無実だった。映画はそこで終わるが、ネットで調べた後日譚が後味悪かった。
真犯人が逮捕されたのち、リチャードは名誉毀損でメディアを訴え、和解金を勝ち取ったが、劇中で真っ先にスクープ(誤報)をすっぱ抜いたアトランタ・ジャーナル(の発行元)との裁判には負けたようだ。どういう訴訟内容だったのか調べてないのであれだが、よりによってそこから賠償金をふんだくれなかったとは。
リチャード・ジュエルは憧れだった法執行官の仕事を転々とするも、健康上の理由により44歳の若さで死去した。劇中でも胸を押さえる仕草があった。あまりにも早すぎる。彼は自分の人生をどう思っていたのだろう。
「リチャード・ジュエル」はメディアによって脚色された報道の問題を指摘する側面を持つ映画だ。にもかかわらず、スクープ記事を書いたアトランタ・ジャーナル紙の女性記者がFBI捜査官に枕営業をして情報を得るシーンが捏造であるという。なんとも皮肉な話だ。女性記者はドラッグが原因で他界しており、もはや反論できない(この事件で精神を病んだ、とも)。
「リチャード・ジュエル」キャシー記者のその後 | アキの映画な日々「人生は美しい」
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アトランタ・ジャーナル紙は彼女の名誉のためにワーナー・ブラザースに抗議したが、ワーナー・ブラザースは「映画は情報源に基づいていると主張し、ジュエル氏が疑われていると真っ先に報じたメディアの一つであるAJCが映画を非難するのは残念で皮肉だ」と述べたそうだ。もしシーンの捏造が事実なら、「お前がいうな」である。
クリント・イーストウッド監督の「女性観」は時代遅れで、それがこのような演出を生んでいるのではないか、という指摘もある。たしかに「運び屋」も、女性が理不尽をやすやすと受け入れすぎるきらいはあった。