@kyanny's blog

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Quipperで2年働いてわかった、グローバル企業で求められる英語力の現実

Quipperに入社して2年経った。

転職するにあたり、最も心配だったのは英語だ。当時は英検もTOEICも受験した経験すらなく、自分の英語力がどの程度のものなのか客観的に知る術がなかった。日常的に英語を使う機会も乏しく、果たして本当に外資系企業でやっていけるのか甚だ不安だった。

2年働いてみて、なんとかやってこれたと思うし、今後もやっていけそうだという手応えもある。2年間の振り返りとして、自分が体験した「グローバル企業で求められる英語力の現実」を綴ってみたい。

前提と特有の事情

仕事と英語にまつわる話を見聞きするときいつも、「帰国子女とか海外留学とか長期出張・駐在とかの経験がある、とかいう人たち、元々普通に比べて英語力が高かったんだからチートじゃんか」と感じていた。自分はそういう経験が一切ない。Quipperで働き始めるまで外国人と仕事をしたことはないし、海外旅行すら一度しか行ったことがない。なので、人生における英語経験という点では、普通の日本人サラリーマン水準だったと言っていいと思う。

前述の通り転職時点での英語力を示す客観的な指標は何も持ち合わせていなかったが、Webエンジニアにだけ通じる例でいうと、プログラミングで悩んで検索したときStackOverflowやGitHub Issuesを読むのは抵抗なくでき辞書を引きながらなら大筋は理解できるが、英語でPull Requestを送るときはGoogle翻訳に頼らないと不安で、英語のPodcastはほぼ聞き取れず何の話をしているか理解できなくて、道端でも勉強会でもカンファレンス会場でも外国人とは一言も喋れない、という感じだった。

その後TOEICを受験し、2014年1月のスコアはリスニング320点リーディング400点の合計720点、2015年1月のスコアはリスニング340点リーディング390点の合計730点だった。TOEIC受験にあたり特に英語の勉強を頑張ったわけではないので、仕事を通じてある程度鍛えられたのを加味しても転職当時でTOEIC600点台くらいの英語力があったと思われる。

また、Quipperは本社がロンドンにある外資系企業で現在はマニラ・ジャカルタ・メキシコシティにもオフィスを構えるグローバル企業だが、CEOとCTOの創業者コンビがともに日本人で、いわゆるリーダー・マネジメント層もほぼ日本人が占める日系企業でもある。なので、会社としての公用語は英語でオフィシャルなアナウンス等も英語でなされるものの、日本人従業員向けには日本語でも伝えてもらえるし、仕事をする上で英語ができないから詰む、というシチュエーションはない。これは一般的な「外資系・グローバル企業」とは異なる、特殊な事情だと思う。

リーディングとライティング

英語を読むことは、元々StackOverflowをなんとか読めるくらいであったので、面食らうことはなかった。しかし書く方は最初のうちはやはり神経を使った。

Quipperでの開発はほぼGitHub IssuesとPull Requestを中心に進められる。そこでは海外拠点で働く外国人エンジニアとコラボレーションしながらやっていく必要があるので、やりとりは全て英語になる。特にPull Requestについては、原則としてレビュアーがマージするというルールがあるので、英語で突っ込みがあったら英語で返答し、マージにこぎつけないといけない。Issuesで何か議論があるときも、意見したければ英語で書かないといけない。開発者同士のやりとりについては英語の得意な文系職の人たちの通訳に甘えることができないので、努力するしかない。

英文を書き慣れていないとき困るのは、語彙不足でも文法の危うさでもなく、「こういう場合はなんと言えばいいのか」というパターンを知らないことだ。パターンを学ぶには、一般的には英会話の本を読んだりするのが良いのだろうが、自分の場合はまず最初はひたすらGoogle翻訳を改変してコピペしてしのいだ。そうしてやりとりを重ねたり、他の人たちのやりとりを読んだりしながら、よくある言い回しをパクっていった。「よくわからない」を I'm not sure といったり、「確認させて」を Let me confirm といったり。パクったフレーズを使いながら徐々に自分のものにしていった。

ライティングの次の壁はチャットだった。Quipperでは目的別にいろいろなチャットルームがあるが、グローバル用(英語)とローカル用(日本語)が分かれていることが多い。日本語チャットでいろいろ済んでしまう面もあり良し悪しなのだが、外国人開発者に質問したいときとか、逆に何か聞かれたときなどは英語チャットをするしかない。外国人従業員はほぼ日本語を解さないし、そもそも公用語は英語なのでこちらが合わせる必要がある。

チャットについても当初は「ちょっと待って」とか「うーん」とか、間を取り持つような言い回しを知らずに焦ってしまったが、元々キーボードのタイピング速度には自信があったので、高速で辞書とGoogle翻訳を使いながらセミ・リアルタイムに応対する、という力技でしのいだ。チャットは定番フレーズをパクるいい機会なので、ある程度数をこなすうちにGoogle翻訳の出番は少なくなり、反応速度もはやくなっていった。余談だが、外国人開発者とのチャットは多くが相手からの1 on 1で、技術的な相談事などで話しかけられることが多い。

リスニングとスピーキング

これはどちらも現状まだまだ、という感じなのだが、やはりリスニングのほうがスピーキングよりも若干上達しているように感じる。

リスニングについては、全社員が一堂に会して行われる隔週のシェアミーティングというビデオ会議があり、その場で各プロジェクトの責任者が英語で報告をするので、頻度は高くないが定期的に英語を聞く機会をもてている。またプロジェクトによっては複数拠点のメンバーからなるチームでデイリースタンドアップミーティングをすることもあり、そういうプロジェクトに携わっているときは自分が英語で喋る機会も巡ってくる。

グローバル企業で働いてみるまで思いもよらなかったことに、英語の聞き取りやすさは喋る人によって相当違う、ということがある。よく「インド人の英語は訛りがひどくて聞き取りづらい」なんて話を見聞きしたりするが、「英語の訛りってなんだよ、関西弁みたいな英語があるとでもいうのか?嘘くせー」と思っていた。が、確かに同じ英語でもだいぶ違って聞こえるものだ。それを訛りと呼ぶのかどうかはわからないが。

日本で生まれ育ち、努力して英語を身につけようとしている日本人の自分にとっては、やはり日本で生まれ育ち努力して英語を身につけたであろう日本人の喋る英語が最も聞き取りやすい。発音がいわゆるアメリカ英語的ではなくて、音の繋がりがあまりないので一つ一つの単語を聞き取りやすいしスピードも速くない。そして語彙も比較的単純というか、わかりやすい単語やフレーズを多用する傾向があるように思う。

次点がフィリピン人の英語で、彼らもゆっくり・くっきり喋る傾向があるように思う。ただしやはり母国語として英語を使っている人たちなのでちょっと早口になったり小声になったりすると聞き取りが難しくなるし、フィリピン人同士が喋っているとタガログ語(フィリピノ語)が混ざる、俗に言うTaglishになることがあり、そうなるとお手上げだ。

その次くらいに海外経験豊富な日本人の英語がくる。アメリカ英語っぽさが増し、音が繋がっていて、スピードも速く、自分の耳では半分も聞き取れないこともある。そして最も難しいのがヨーロッパ人、というかロンドン在住のイギリス人の英語だ。彼らはなんといっても本場、シェイクスピアの国の人たちなので、スピードもさることながら使う語彙が非常に多彩だ。「イギリス英語特有の何か」以前の問題として、たぶん知らない単語とか知らないフレーズをばんばん当たり前に使っていたりもするのだろう。彼らがミーティング等で喋っているのを聞いてもいまだに、流れについていけなくなって何の話をしてるのかすらわからなくなってしまう。彼らと1 on 1でビデオ会議する日がいつかくるのか、考えただけでおそろしい。

リスニングの上達には時間がかかる。たまに英会話をする程度では耳が英語の音やリズムに慣れないし、単語や語彙を知らないと聞き取れない・聞き取っても意味がわからない(そして辞書を引いている暇はないので言っていることが理解できない)ので地道な勉強も続ける必要がある。Podcastや英語のニュースラジオなどを聞いて英語を「浴びる」のがいいのかもしれないが、自分は音声だけのメディアはすぐ飽きてしまって長時間聞き続けられないので、iKnow!をやりながら例文の英語をちゃんと聞く、程度のトレーニングしかしていない。上達している感じはしないが、口頭でのやり取りが頻繁に求められる仕事ではないので、いまはこれでいいと思っている。

スピーキングはとにかく場数を踏むしかない、ということがわかった。日本で暮らし、日本人と一緒に過ごしていると英語を喋る機会はほぼ無い。Quipper日本オフィスですらそうだ(ちなみに残念ながら常駐の外国人従業員はまだいない)なので本気でトレーニングしたければラングリッチのようなオンライン英会話サービスを利用する必要があるだろう。ただ、どうしても英語しか通じない相手と喋らなければならない、というシチュエーションでは、非常に疲れるものの結局どうにかなる(できる)ものだとも思う。しかし、相手の言ってることが聞き取れない・理解できないとそもそも会話が成り立たないので、結局リスニング次第だといえる。

あと自分の場合はやはり、英語を喋る前に一旦頭の中で英作文をしてそれを読み上げる感じになってしまっているので、書くほうも上達していかないと言葉が思い浮かばない、という状態になってしまう。言葉が思い浮かんでも、それをとっさに口に出すことができるかどうかはまた別の訓練が必要なのだが、そっちの瞬発力のほうは喋る機会があればすぐに発揮できるようになってくるので、やはり英作文、そのための定番パターンの蓄積が大事なのだと感じている。トレーニングになっているかはわからないが、英文を書いたときは見直しをしているときに口に出してぶつぶつ言ったりしている。黙読でも音読でも自然に感じられる英語はおそらく自分にとって習得も活用もしやすいはずだからだ。

どの程度の英語力が求められるのか

十人十色・千差万別ではあると思うが、自分がQuipperで経験してきた上でいうと、上で触れた4つの要素についてそれぞれ以下のように考えている。

  • リーディングは、ググってStackOverflowが出てきたときに諦めてタブを閉じずちゃんと読む気になれれば問題ない
  • ライティングは、辞書とGoogle翻訳でどうにかなるが、使えるフレーズをパクって増やしていくのを忘れないこと
  • リスニングは、一番難しいので何かしら対策を講じる必要があるし、成果が出づらくてもめげない強い心も必要
  • スピーキングは、できなくても詰まないし他の3つに比べて機会も多くないので、気に病むことはない

仕事で英語を使うということについて、自分は「全然大変じゃないよ」というつもりもないし、逆に「ものすごく大変だよ」というつもりもない。それなりの努力は求められるものの、何かを犠牲にすることなく日常的に向上していれば十分ついていける。なめてかかったら痛い目を見るけど、怖気付くほどのものでもない。このように、英語について極端すぎる捉え方をしなくなったことが、この2年で最も成長した「英語力」なのかもしれない。

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