要約
- これは「従業員が立て続けに辞める事象 = 連鎖退職」について分析した本である
- 連鎖退職には二種類ある
- ドミノ倒し型
- 蟻の一穴型
- 「ドミノ倒し型」は、退職による業務負荷の増大が原因
- 「蟻の一穴型」は、影響力がある人の退職で職場の問題が顕在化することが原因
- 「ドミノ倒し型」は人的余裕の少ない中小企業に多く、「蟻の一穴型」は大企業に多い(管理職や経営者が職場の問題を放置していたことが原因のため)
- 予防策
- 採用
- 採用前にネガティブな面も含めて詳細に情報提供する
- 採用基準を変更して合う人をとる
- 人事評価
- 報酬の分配方針(成果主義)
- 評価結果に対するフィードバック
- キャリア形成支援(メンター制度)
- 定期的な配置転換をする(環境を変える)
- 業務改善
- 「働き方改革」
- 残業・長時間労働の削減
- 業務の効率化
- 福利厚生の充実
- 研修
- アンガーマネジメント
- 「働き方改革」
- ハイパフォーマー人材のリテンション(セレクティブ・リテンション)
- 社内での人間関係・影響力の把握
- 「あの人が辞めたら、火消しにかからねば」
- 組織内のコミュニケーション設計
- タテのコミュニケーション(直属の上司)
- 1 on 1
- ナナメのコミュニケーション(他部署の上司)
- 退職時面談
- タテのコミュニケーション(直属の上司)
- 採用
- 「蟻の一穴」にしないために
- 引き止め
- 周囲の社員の目を意識して、という側面
- サクセション・マネジメント
- 引き継ぎ
- 後継者育成
- 退職者を悪く言わない
- アルムナイ制度
- 引き止め
- 被害を最小限にするために
- コミュニケーションを変える
- 報告・伝達型の会議から相談・議論型の会議へ
- 管理職が何気ない雑談を持ちかける
- 後任選び
- 外様ではなく生え抜きを据える
- レピュテーションリスク
- 普段からの関係性構築が重要
- コミュニケーションを変える
感想
Amazon のレビューにあったが、ヒアリングと分析が主で、対策については通り一遍のことばかり書いてあるので、連鎖退職で困っている当事者が解決のために読んでも実りは少なそうだった。
メモ
- 「組織阻害行動」
- 組織に良くない結果をもたらそうと意図された行為
- 「組織市民行動」
- 自分の職務でないが組織にポジティブな影響を与える行為
ハイライト
優秀な人材は「自分で決断し、行動する」ことに慣れているため、いったん退職の意思を固めると、事後的な説得は非常に困難です。
そのとおり。退職を交渉のカードにするような人間は下の下だ。
うちの会社の場合、〝やりたいこと、なりたい姿が明確な人〟はそもそも入ってきません。ただ、途中でやりたいこと、なりたい姿が明確になった人は辞めていきますね
そんな会社やだな、と思ったけど、そんな人・会社のほうが多いのかもしれない。
うちの会社では5年前ぐらいから、社員一人ひとり退職する際に『退職議案』を書かなきゃいけなくなりました。退職は本人の自由なので、普通は退職届を出せば自由に辞められるんですけど、うちでは『辞める』となると社内稟議を回さなきゃいけないんです。それも人事部長や社長、経営層まで情報が回り、『なぜ辞めるのか』を一人ひとり説明させる
最悪なやり方だと思う。辞める人間は「なんの義理があって」と悪印象を抱くに決まっている。悪い評判を吹聴させることを助長するようなものだ。
連鎖退職発生前の職員会議では、『こういう報告があります』とか、『こういうふうに決まったから、いつまでにこうしてください』などと一方的に伝えることが多かったんです
大きい組織だと、進言する「上」の階層が多いのでやたらと時間がかかる(大企業だと、子会社の管理職→子会社の経営陣→親会社の管理職→親会社の経営陣、とか、孫会社ならさらに多層に)。そして大抵の意見はすでに何らかの形で考慮済みで結論が出ていたり、そういう意見の亜種だったりするし、大方針の結論を左右するような意見であることは少ない。なので中間の人間(管理職とか)からすると、「その意見を吸い上げて進言してもどうせ何も変わらないし、自分も会ったこともないような上層部にわざわざ進言する手続きとか説明とか待ち時間とか結論のフィードバックとか、もろもろのコストが見合わないので面倒くさい」ってなってしまうよな。
優秀な人材の退職が組織に与える影響
「誰もが予測していたであろう最悪の状況が、すぐさまIT部を襲った。それぞれのチームの連携は、取り持つ人がいなくなったためにごたつき、当たり前のように起きるトラブルへの対応も著しく遅れるようになった。事態を把握して取りまとめ、各チームへの指示をする人間がいなくなったからだ。小田さんによって整理され、軽減されていた各チームの煩雑な作業が放置されたことで、誰が何をどうすればいいかすらわからない業務が部内のあちこちで発生し、そのたびに各チームのリーダーで話し合いをせざるをえなくなった。関連の資料やデータがどこに格納されているのかすら、誰もわからない。設定されていたミーティングやカンファレンスも、セッティング途中で宙に浮いたままとなっている。……小田さんひとりがいなくなったことで、ここまで部内が混乱し、いくつもの業務に支障が出るというのは驚きだったが、それはつまり、小田さんがそれだけの仕事をしていたということでもある。」
このような、事実上の現場リーダーの存在を「単一障害点をなくそう」と冗長化しようという動きは、理屈上は正しいし、実際自分もそのように採用や組織設計などもしてきたが、やっぱり間違っていたと思う。
ただし、行き過ぎると、部署の仕事の多くが「誰にでもできる仕事」になってしまい、一人ひとりの専門性を活かせず働きがいを感じられなくなることもあります
↑こういう事態を招いて、ハイパフォーマーを失うことに繋がるので。
小田さんがいなくなってから、それは少しずつ大きくなり、今となっては部内に蔓延して、誰もがイライラして尖っていた。協力的な態度は消え、自分の仕事以外には関わろうとはしなくなり、情報共有すら拒む人までいる。他人のミスや失敗に手厳しくなり、何か起これば、その責任は誰にあるのかと押し付け合い、厳しい言葉が飛び交う。それが小田さんを失った今のIT部だった。
自然に潤滑剤の働きができる人の存在はかけがえがない。頭数を増やせばいいってもんじゃない。
さらに、ナレッジの蓄積への悪影響は続きます。ノウハウを身につけたメンバーが、転職先でそのノウハウを活かして、手強いライバルとして立ちはだかることもあります。一方、ナレッジやノウハウは社員一人ひとりの経験や裁量による部分もありますから、完璧に引き継ぐことはまずできません。そのため優秀な人が退職すると、本来100あったナレッジの何割かは減ってしまうのです。
そう、優秀な人を失ったら、何人採用して補填しようが、埋められない。
小田さんがいなくなったことで、奈美子さんの状況も日に日に悪くなっているらしく、最近は食事も喉を通らないようだった。……唯一楽しい時間だったランチも、励ましと相談の時間になっている。
つらい。一人になれる時間も無いなんて。
口火を切る人は主張が強く、得てして仕事でもいい業績を上げている
連鎖退職でファーストランナーになり得るような、周囲への影響力が強い優秀社員は、組織での働きやすさだけでなく、「働きがい」を重視する傾向があります
今考えると、ファーストランナーだったんだなって思う人はいます。ただ、その人自身が周りに退職を吹聴したわけではなく、退職を聞いた人が2人、3人と辞めていった
誰が最初に辞めるかが重要ですね。それが管理職だったりキーマンだったりすると、もう芋蔓式で退職が起こります。その人が引っ張る場合もあるし
役員の◎◎さんはすごく優秀で、〝◎◎さんがいるから会社が大きくなった〟と言っても過言ではないような人です。どんな苦しい時でも状況改善のために頑張った人なのに、引き抜きがあって辞めていった。管理部門の人が辞めたインパクトは大きくて、『この会社に先がないと思ったのかな』と周りの人の将来不安を倍増させたようです
僕自身は前向きな理由で退職したんですけど、後で『Aさんが辞めるぐらいだったら会社の未来はもうないんだなと思った』みたいに、理由にされたようです
マネジメント体制
組織が成長していく上で必要なのが経営戦略やマネジメントです。連鎖退職が起こることで、マネジメント体制が崩壊し、組織の成長に悪影響を及ぼします。
また橋渡し役がいなくなり、上の人が考えていることと下の人が考えていることをつなぐのも大変になります
特に主要事業を行っている部署での連鎖退職は、すぐに業績悪化につながります。例えばIT企業における花形エンジニアや、営業成績が上位の営業職。こうしたコア人材は会社にとっては意地でも辞めてほしくない存在ですが、本人たちはエンプロイアビリティが高いため、「落ち目」と感じた会社にはさっさと見切りをつけて次に行ってしまうというジレンマもあります。
そのとおり。なので、退職すると言われた時点でもう遅い。そこから翻意するというのは、よほど責任感がありタイミングが悪いケースか、気を引くために言ってるだけのケースだ。
サイボウズ㈱の場合、大阪本社を東京に移動することになり、社員全員を強制的に移動。その結果、その後数年かけて社員がどんどん辞めていったそうです。
なるほど。生活環境が大きく変わるから、無理があったのだろうな。
ファーストランナーの退職が逆に良かったケース
強いネガティブ感情を持つ人が減ることで、逆に組織の風土が良くなるという場合もあります。例えば何か新しい取り組みをしようとすると異議を唱えて動かない人、会社のあることないことを言いふらし若手社員にネガティブ感情を伝染させる人など、その人の存在が組織の問題の原点である場合、いなくなること自体が問題の解決につながり、組織は改革に取り組みやすくなる、こんなケースもあります。
(連鎖退職の原因となった人が)辞めたら、保育園の中が一気にまとまりました。採用に対しても保育士から『園長先生、人がいなくて大変ですけど、変な人はいらない。慌てて雇わないでください』と言われています
経営陣が『あいつは辞めて良かった』『いい人が残った』って言っていますね
でも、こういうことを言ってることが現場の従業員の耳に入ると、経営陣への信頼は大きく損なわれると思う。「自分もそう思われているのかも」と疑心暗鬼になる。
信頼される管理職
また、特に面談を行うわけではないんですけど、日常のちょっとした会話で変化を見てくれたりとか
メッセージがすごくわかりやすかった。人としてコアな部分、一番大切なところを何回も繰り返し話してくれる上司でした
自分も管理職だった頃は、多少なりともこういうことを意識していたなぁ。
例えば部長が辞めた時、トップや人事で『ここに誰を持ってくるかで辞める人がまた出てくる』と懸念する時もあります。実際にこの前ある部長が辞めたのですが、そこに別の部長を持ってこようと考えていたら、それを察知したメンバーに『その人が来たら私たちは辞めます』と面と向かって言われて(笑)。別の対策を打たざるを得ませんでした」(IT系A社Cさん)
信任を得ていない人間を上に据えたらだめだ。そういう人事をする経営者が悪い。
園長である私が保護者から非難される分、主任には強気でいかせました。この1年、『先生が弱気でいる必要はない。あなたは次にここを任せる人。先生たちが辞めたのは私のせいと思っているだろうから、反発は私が受け止める。あなたは保育に30年以上携わってきたことに自信を持って。保護者にも言えることは言ってください』と、ずっと言い続けてきました
良い管理職だ。
連鎖退職の火消しをして燃え尽きた管理職
保育士の連鎖退職状況の中で、その対応に追われ責められることも多かったDさん。最終的に退職に至りました。
「連鎖退職への対応に、ほぼ1年かかっています。1年間、園長としていつも見張られながら過ごしたような感じでしたね。顔には出さないようにしていましたが」
非常にストレスフルな状況であったことがわかります。それも1年間という長期にわたり、組織の最高責任者として対応に当たったDさんが受けた影響は大きかったと言えます。
バブル経済崩壊後、多くの企業でリストラが実施され、その陣頭指揮に当たった多くの人事担当の管理職が、リストラ業務を終えたその後、自らも会社を辞めていきました
読むだけでつらくなる話だ。他人事ではない。

- 作者:山本 寛
- 発売日: 2019/06/11
- メディア: 新書