例の記事の反響で一番の驚きは、匿名掲示板時代の知り合いから連絡が来たことだった。
急遽オンラインオフ会をすることになり、もう一人を交えて約二十年ぶりに再会した。過去に会ったことなど一度あったかどうか、なので顔も覚えていないのだが、見てみるとそういえばこんなやつだったような気もしてきた。
匿名掲示板なんて煽り煽られが日常で、奴らともそういう間柄だったが、三人目は不倶戴天の敵といっていい男で、仲介役曰く三年ほど前にも Skype でメッセージをやりとりして飲み会に誘ったが、その男の名を出した途端おれが音信不通になった、と。そう言われればそんなこともあった気もする。
なぜそれほどまでに敵視していたかというと奴はいわゆる恋敵で、おれが告白して振られたあと奴がその子と付き合って別れたのだが、それがショックで傷ついたり、追い討ちをかけるようにからかわれたりというのが掲示板上で続いて逆恨みするに至った、という経緯。
いかに根に持つタイプであっても、二十年近く昔の出来事をずっと恨み続けるエネルギーはなかった。当時を思い出すと今でも切ない気持ちになるが、甘酸っぱい青春の一ページとして折り合いをつけるのに二十年という時間は十分長かった。もう時効だろう、ということで三人で話すことを承諾した。
当の本人は夜から開始したのに寝てて三十分以上遅れて参加し、しかも「中年になって太った姿を見せたくない」といってカメラは終始オフのままという体たらくだったが、四時間以上も喋っていて一度も昔のような怒りは感じなかった。はてなに流れ着く前、おれの人生が最もみじめだったころを誰よりも知る連中と、当時の倍も歳をとって再会するのはなんともいえないものだった。
お互い家庭を持ち、子供が産まれたり三十五年ローンで家を建てたり、仕事の話からお受験の話から、取り止めもない話をした。想い人と奴は伝え聞いていたとおりとっくの昔に疎遠になっていて、今どこで何をしているのかも知らないという。やはり数えるほどしか会ったことがなかったので思い出を美化しまくっているのは重々自覚している。せめて達者で暮らしていて欲しいと思う。
昨日の敵はリモートワークで話し相手が欲しかったようで、また三人で話そうといって接続を切った。Twitter でも DM が来ていて、奴らも二十年の時を超えて掲示板からワープしてきたわけではなく、ちゃんと今のインターネットに地続きで存在してきたのだと思うと奇妙だった。当時の匿名掲示板の流れを汲む掲示板が未だに存在し、当時の常連が未だにポツポツと書き込みをしていて、あそこだけ時間が止まったようだった。