shelff 三ヶ月目の一冊。
経産省の官僚だった人が書いただけあって、現状認識の整理と課題の整理はわかりやすかった。しかし結論は歯切れが悪く曖昧で、お茶を濁している。弁が立ち論も立派だが最後の責任を取ろうとはしない姿勢がいかにもエリート役人っぽい。
日本政府の借金の何がどう問題なのか、というあたりはこの本を読んで解像度が高まった。社会保障費は増加し続けており、政府は国債発行で賄っているが、借金の総額よりも毎年の利払費(金利)の負担が問題。この負担を抑えるために日銀が金利を下げて、政府が民間の銀行に売った国債を日銀が買い取って買い支えている。これが異次元緩和。しかし国債の金利で儲けが出なくなったので地銀の経営が厳しくなり、また日本国内の経済活動だけで国債を無限に買い支えることはできないので、いずれ限界が来る。
定年・引退時期の後ろ倒しと「生涯現役」、消費増税など、立憲民主党所属の衆議院議員、小川淳也の政策と通ずるところが多くあり、小川淳也も元官僚なので(経産省ではなく総務省だが)、やはりエリート官僚からは同じような景色が見えていて、同じような認識・結論に至るのだろうなと伺えた。
安全保障に関しては、先の大戦の経緯に立ち返って説明されており、最初は回りくどく感じたが、読み終えてみると筋が通っていて、大きな構造でとらえたほうがわかりやすい好例だと感じた。植民地政策をとっていた欧米列強が、自国と植民地だけで貿易して閉じた経済活動をするブロック経済に走り、自由貿易が閉ざされたことで資源に乏しい日本の経済活動は窮地に立たされた。日本も自らのブロック経済圏を作るためにアジア進出を果たすが、アメリカからの輸入に依存していた石油の調達計画だけ不十分で、アメリカの禁輸が引き金となって東南アジアの石油を求めた無謀な太平洋戦争に突入し、そのアメリカに負けた。アメリカは資源も内需もあるので自由貿易なしでもやっていけるが、世界が同じ過ちを繰り返さないために自由貿易を守る立場をとり、世界の警察となった。このへんは学生時代に歴史(近現代史)を真面目に勉強していれば知っていることなのかもしれない。不勉強を露呈した。
あと、同じく安全保障、特に米中関係と核については、アメリカが「日本を中国に支配されることも、日本の核武装を認めて自衛させることもアメリカの安全保障上受け入れられないので、いまの日米関係を維持する」という立場をとっていること、しかしその背景には「日本が再び軍事化することを恐れているからこそ、守って軍事化させない」という事情があり、であれば日本は「核を持たないが核の要素技術は全て持っているのでその気になればいつでも核武装できる」という絶妙なバランスを維持しなければならず、核の要素技術維持という安全保障の観点からも原発の是非は考える必要がある(脱原発は安全保障上の問題に発展しうる)。こういう、非常に入り組んだ話題は、これぞ政治なんだろうなと唸ってしまった。