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演劇で思い出すのは最初に務めた会社の先輩のKさんのことだ。

Kさんは元劇団員で、現役当時は知り合いの芝居をよく観に行っていたらしい。付き合いとかいろいろあったのだろう。あまりにもたくさん行くのでいちいちパンフレットやチラシを持ち帰っていられないので、毎回観劇後はパンフレットやチラシを座席の下に置いて帰るのだと言っていた。

社長の友達が主役をやるというのでやはり付き合いでとある劇団の芝居を観に行ったときのこと。Kさんも同じ日の同じ回を観にきていて、隣の席だったろうか、座ると開演前にパンフレットとチラシの束をスッと座席の下に置いた。そして観劇後は一瞥もくれず立ち上がって帰っていった。その仕草がとても格好良かった。

それ以来、芝居なんて数えるほどしか観に行ってはいないけど、行くたびに毎回Kさんの仕草を真似して、劇場の座席に座るとパンフレットとチラシの束を下に置き、そのまま放置して帰ることにしている。持って帰って読みたい気持ちも多少はあるし、劇場にとってはゴミを捨てていく迷惑な客と大差ないわけだけど、この風習を続けることで、会社を辞めてから一度も会っていないしおそらく死ぬまで二度と会わないであろうKさんのことを思い出せるので、やめられない。