@kyanny's blog

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JAWS-UG金沢 x AWS Startup Community プレゼンツ『北陸でStartupをはじめよう・みつけよう』

に参加した。100 人規模のなかなか大きなイベントで、この規模のイベントはなかなかないとのこと。運営やボランティアの方々、発表者の方々、ありがとうございました。

jawsug-kanazawa.doorkeeper.jp

感想など。

石川県のスタートアップ施策について

石川県副知事 西垣淳子 氏の話。経産省の官僚だけあって、理路整然とした語り口。投影資料は情報量が多くイカニモな感じ(各所の資料からの出典)。石川県として、生成 AI を使った広報キャラクター「AI石川県知事 デジヒロシ」というのをやってるらしく、「この話が終わったときにフォロワー 1750 人を超えていたいのでフォローお願いします」無事に達成されていた模様。

石川県は高等教育機関は多いものの大学発ベンチャーが少ないとか、スタートアップへの投資額が少ないとか、地方ならではの課題もあり、その辺を打開するために東京と組んでやっていくとのこと。やはり人材も投資家(資金)も東京一極集中なので、と。特許庁にいたこともあり、スタートアップ企業の知財戦略という話に触れていた。

まあ偉い人が限られた時間でいろんな課題や取り組みについて仔細に話すのは難しいので仕方ないことだけど、総論であり、結局なんか色々難しいけど色々やってるんですね、と、何か強く印象に残るという内容ではなかった。

ISICOのスタートアップ支援について

公益財団法人 石川県産業創出支援機構(ISICO)の人の話。偉い人の次の順番だったから場を和まそうとしたのか「私は皆さんに一番近い(偉い人ではない)兵隊みたいな立場で」と言ってたのが印象的だった。兵隊。面識ないのにイベント主催の加藤さんから電話があって、と、無茶振り気味だったことに触れつつもちゃんと来てくれているという。アクセラレータープログラムとか色々支援施策あります、と。まあ、起業する人向け。

中小企業支援施策の紹介

独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)の人の話。普段見聞きし慣れない、フォーマルな組織名が続く。タキヒラ様、と紹介されたが「実はタキダイラなんです」と訂正するも、「普段は中小企業の社長さんとかを相手に話すことが多く、今日は客層がガラリと違うのでとても緊張してたのですが、今ので緊張がいい具合に解れました」と前向きなフォローをしてて好印象、頭の回転が早くて柔軟な人だなあと感じた。

こちらはビジネスマッチングなどでも支援してますよとのことで、J-GoodTech ジェグテックという無料のマッチングプラットフォームも提供している。事例として具体的な企業名付きで「こういう困り事がビジネスチャンスに繋がった、それを取り持った」という話が聞けて面白かったが、書いていい情報かわからない。資料は非公開とのことだが、公開して広く読まれたらいいのになあ。

「皆さん中小機構の話を聞く機会などなかなかないと思うので」その通り、その点でこのイベントは普通の IT コミュニティイベントと違っていて、特徴的なところだったと思う。

スタートアップに学ぶイノベーションの起こし方とクラウドの活用方法

AWS の人と、その人が担当してる?スタートアップの人が活用方法を話す。

AWS の人の話は、オンプレの構成をそのままクラウド上で再現する Lift&Shift だけだとクラウドの真価を発揮できないですよ、マネージドサービスを活用していきましょう、という、まあ知ってる人にとってはごく当たり前の話。

スタートアップ側は、Graffer という GovTech の会社。@kyo_ago さんが所属している会社だよな、と名前は知っていた。AWS の活用という点については、ワークロード部分は Lamdba でサーバーレスしつつ AWS Transit Gateway というのを使ってデータストレージ部分は堅牢に、特に政府・自治体系のシステム開発だと三層分離といって(なつかしい)インターネットに繋がらないネットワーク内でやらなきゃいけないことがあるので、という話など、踏み込んで説明したら面白そうな話題ではあったけど、時間の関係かあっさり目でやや消化不良。

「小規模なワークロードのほうがサーバーレスに向く」は確かにそうなのかも。費用面のメリットも大きそうだし。Edge で加工とか、細々したコンポーネントを色々使ってやるのは、開発者一人二人とかいう小規模システムなら把握できるだろうけど、開発者二桁を超えて大きくなると全体像の把握が難しくなって厳しいんじゃないかなあ。AWS CDK という、プログラミング言語で Infrastructe as Code を書けるやつの話もしてて、いわゆる DSL ということなんだろうけど、自由度高くなりすぎて破綻しそう。

クラウドとコミュニティで進化できる地方エンジニアと中小企業

東北で AWS インテグレーターを起業してコミュニティでもビジネスでも大成功している人の話。新卒入社予定の会社が崩壊して社員の九割くらい入社前に辞めると聞いたのに「その環境ならすぐ No.2 になれるかも」とチャンスと捉えて飛び込んでデータセンターの隣に住んで一人で 24/365 システム運用したり、東日本大震災をきっかけに東京でキャリアを積むより地元東北で起業を選ぶも最初は全く仕事なく、実家の農家の売れ残り野菜を売る EC サイト作ったり、とにかくバイタリティと行動力があるなあと。そりゃあ成功もするよなあと。

地方のほうが情シス不在、レガシーシステムがそもそもない、という企業が多い分、AWS などの先端技術を入れやすい側面もある、むしろチャンスであると。ただ、地方の IT 企業は東京の下請けだったり、地元企業のシステム開発だったりで、クラウド技術のケーパビリティを伸ばしていかないといけない点に課題がある、と。企業がクラウドを推進するための CCoE(Cloud Center of Excellence)という組織を取り上げて、地方の先進的なクラウドシステムインテグレーターは地域の CCoE のような立場を担うプレイヤーになるといいのでは、と。こういう視点を持ってビジネスに取り組んでいる点も含めて、優秀な人であるなあと。

気象データ活用したガソリンスタンドの災害対策サービスとAWS構築事例

タマダという、ガソリンスタンドの地下にあるタンクを作ってる会社のグループ会社で、そのタンクの不具合検知システムに AWS を使ってますという話。この TAMOS というやつの一部(PDF 2 ページ目右下の図がスライドに出てきた)。これもマネージドサービスをフル活用して運用コストを減らしている、という話だったが、業務知識がないと全然ついていけない。あと、時間が短く、もっと長い尺でじっくり話せたらもっと面白く聞けただろうにな、と。

Lightsailのススメ

Lightsail の機能紹介。本当に紹介だけで、どう使うといい・使ってる、みたいな話はなし。これは各自 AWS の画面触ればいい話だなあ。「(色々簡素なので)AWS の勉強にいい」と言っていたが、色々 Lightsail 内で完結していて他の AWS コンポーネントとの連携が弱い分、AWS の勉強には向かないのでは。

防災無線再配信サービスAlertQueのAWSでの実装

ストリーミング配信系のサービスを作って、防災無線をインターネットで聞けるシステムに使った、という話。これは面白かった。このイベントの発表の中で一番。技術的には EC2 で音声データの変換したりと、マネージドサービスを使ってなくて AWS 活用という点ではむしろ平凡なのだが、防災無線の音声データをどうシステムにインプットするか?に対して「役所の現場で音が鳴ってるなら、パソコンのマイクで音拾えばいい」とか、なんでも全部デジタルで頭からお尻まで完璧なシステム化を目指さず、いい感じに既存の役所業務の負担を増やさないように組み込む、みたいな発想がとにかくユーザー第一主義という感じで、プロダクト開発の発想として素晴らしいなあと。

実際に運用しているシステムがこれで、

city-kanazawa.alertque.net

これの UI も素晴らしい。でっかいボタンがあって、押すだけ。そして、この発表も残念ながら資料公開は無しとのことだが、役所側への説明書的なものだろうか、「このボタンを押すと何が起こるのか?」を説明した一枚のスライドがまた秀逸で、防災無線が流れてる時はリアルタイム音声を流す、流れ終わってたら直近のをリピート再生する、リピート再生期間(役所側で決められる)を過ぎてたらアーカイブ再生モードになる、とか、場合わけを下手に説明したらわかりづらくなる程度には複雑さがあるのに、簡素なビジュアル含めとても簡潔に説明されていた。リピート再生の日数なども、任意の日付を指定しなければデフォルトで数日で解除になるとか、とにかく「役所の仕事が増えることは嫌がられるので、仕事を増やさないように」と、ユーザーにとっていい感じに使えるシステムを作る、という姿勢が一貫していた。「役人は通常業務してたら、PC 立ち上げっぱなしでマイク挿しっぱなしにしとくだけで、あとはシステムが勝手に音声流れてることを検知して勝手にネット配信する」発表者の飄々とした喋りも小気味良かった。

地方スタートアップでもグローバルで勝ちたい

バーチャルオフィス ovice の人の発表。自社サービスを使って、バーチャルオフィス内でプレゼンしてる様子をオンライン配信というスタイル。七尾市在住とのことで、なぜ七尾なのだろう?

企業がオフィス回帰する理由に「コラボレーションコスト」がよく挙がるが、確かにリモートワークでコラボレーションコストが増大したものがオフィス勤務に戻ることによって減る面はあるだろうとしつつも、しかしそれは純減ではなくて、個々人の通勤時間というコストに転嫁されているだけだ、企業が従業員にコストを転嫁している、と喝破したのはなるほどと思った。

地方スタートアップならではのメリットは「さほどない、その土地じゃないとダメな理由か、使命感などがない限りは、東京がおすすめ、地方メディアより東京のメディアに取り上げられたほうが有利だし、補助金なども地方のほうが(ライバル少なくて)もらいやすいかもしれないが大都市のほうが予算がある」など、イベントの趣旨に真っ向から反するようなぶっちゃけトークが聞けてこれはこれで面白かった。ただ、ovice 自体が物理的な制約をなくすバーチャルオフィスのサービスを売ってる会社なわけで、ポジショントーク的に「どの土地で企業するのが良い」という話になるわけがないよな、とも。

最後に宣伝で、賞金 1,000 万円のハッカソンやります!ovice の新機能を使ったテーマです!でもその前に beta テスターを募集してるので QR コードから応募してね、とか、宣伝するのそこか?と、荒削りな流れで色々面白かった。

小松市から全国2000店舗以上に導入されているサービスを作るまで

父親が経営してたレセコン(診療報酬明細書を作成するソフト)開発会社が潰れそうなので入社したら色々レガシーだったので立て直して新規事業も始めた、という話。これは優秀な起業家がいかにビジネスを立て直したか、という話としてとても秀逸で、AlertQue の話に次ぐ面白さだった。

海外留学してビジネスを学んだ人らしく、SWOT 分析とか 5W1H + エビデンスとか、ビジネスフレームワークの基礎からみっちりやって、それをちゃんと実行して現実に応用して、理想に走らず現実的に適用していって、と、大したものだなあと。リサーチもちゃんとしてて、主要事業だったレセコンは「全国の医療機関で導入率 99.8%、ほぼ導入され切ってて新規参入やシェア拡大の余地がないマーケットなので見切りをつけた」とか、現場でヒアリングしたら「薬は3万種、調剤薬局の在庫は1000種、発注や棚卸しは手作業・紙ベース・勘、在庫管理できる在庫管理システムが業界に一個もなかった」など、ほんとちゃんとしている。社内改革も、コミュニケーションの問題を IT で解決したり、ソース管理が VSS でコンフリクトとロックで半日潰れる生産性の低さを GitHub 移行で解決とか、社長の息子だからこそ動きやすかったというのはあっただろうけど、あらゆる方面の課題を解決してすごいなあと。お父さんも、海外留学までした優秀な息子が潰れかかった自分の会社を継いで V 字回復してくれて、嬉しいだろうなあと(社長はこの人の兄が継いで、兄弟で経営してるらしい。なおさら)

とても面白い話ではあったのだけど、持ち時間に対して話題が盛り込まれ過ぎていて、もっと長い尺で聞きたかった。

政務活動費DXにおけるデータ管理とAWSサービスの活用

政務活動費DX?というこれまた聞き慣れないことをやるシステムの話。「マイクロサービス化」する上での DB 分割方針で悩んだ、という話が一つあったが、聞いてた限りだとそれはマイクロサービスとは呼ばないのでは・単に違うサービス(システム)間で同じ DB を共有している設計がまずいのでは・むしろサービス単位であればモノリシックなシステムのままのほうが安定するのでは、など、ちょっと気になる感じだった。もう一つ、AWS の Cognito という認証基盤を作るコンポーネントの話、これも実際触ってみないと具体的にどういう動きをするのかイメージが掴めなかった。

地域発展の新たなフロンティアを探そう、地方企業こそサーバーレスを活用すべき3つの理由

AWS の Serverless Specialist の人の話。このポジションは、Solutions Architect の一種なんだろうか、Evangelist 的なものの一種なんだろうか。こういう場も含めて喋り慣れてる人なんだろうなあという印象で、スライドも簡潔でわかりやすいし喋り口も上手い。スライドが短いと全部読んじゃう人が多い中、読む場所・読まずに飛ばす場所のコントラストの付け方などもそつがない。

副知事の話でも触れられていた、北陸三県の GDP 2022 年だと茨城?と広島の間、市場規模を狙うならやはり首都圏マーケットを狙わないと厳しく、地方拠点で創業するメリットが薄い、なので地方のスタートアップはイノベーション x 収益ではなくイノベーション x 課題解決という軸でいくのがいいのではないか、地域課題という点ではむしろ地方のほうが先をいってるからチャレンジし甲斐がある(し、ある意味小規模な地方で課題解決できたらそのソリューションをより大きなマーケットである大都市圏に持ち込むことも可能だろう)、と。

サーバーレスの人なのでサーバーレスの話もあり、しかし AWS の人や彼らと近い人たちは「サーバレス」(サにアクセント)という発音で、不思議な感じだった。Lambda と DynamoDB と、みたいな見慣れた構成例は、ほんと AWS の人って DynamoDB を推してくる印象だけど、もっと普通に RDBMS を推したほうが騙されもとい勘違いして辛いシステムを組んでしまう人を減らせてみんなハッピーなんじゃないの、とか思わなくもない。サーバーレス三つの利点を QCD Quality Cost Delivery になぞらえて説明とか、ほんとプレゼンが上手。

AWS の人たちはみんなロゴ入りのキリッとしたパーカーを着ていて、ユニフォームって感じがしたし、SA だけじゃなく営業だったり何人か参加していて、まあ AWS 関連コミュニティ同士のコラボイベントなのだからコミュニティ周りをケアする担当者たちが来るのは仕事としても当然っちゃ当然とはいえ、当然会社としてバックアップしてるのだろうし、普通に人数から人の層から厚いのだろうし、なんかそういう場で同僚と会って担当してるお客さんと会ってコミュニティの中心人物とかと会ってユーザーと会って、とかしてるのを見てると、楽しそうだなあと羨ましくなった。

懇親会

スマホのロック画面をデジタル名刺代わりにする - @kyanny's blog を実践した。Re: スマホのロック画面をデジタル名刺代わりにする - @kyanny's blog

数名の方とお話しした。

  • 最初のテーブルでご一緒した方は昔 CD ショップで働いてたときに知り合ったアーティストと音楽イベントを共催したことがあり、そのアーティストが近年世界的にも注目されるようになって 金沢21世紀美術館 | ASUNA 100 Keyboards というイベントをやったとかで、いろんなところにいろんな人がいるなあと。
  • JAWS-UG金沢 #94 & Kanazawa.rb 『Ruby on Rails on App Runner ハンズオン』 - JAWS-UG 金沢 | Doorkeeper の懇親会でお話しした方 & 懇親会でお話しするチャンスがなかった方に挨拶した。一人の方は配偶者が石川出身なので移住したという点でおれと共通点があり、盛り上がった。
  • Kanazawa.rb の方からは、地方企業ならではの人材採用・人材育成の難しさなどの話を聞いた。
  • AWS Startup Community@xhiroga さんに、お勤め先の justInCase は以前知人の伝手で名前を聞いたことがあるんですよという話がてら挨拶し、埼玉県上尾市出身と言ったら「同僚にも上尾の人いますよ!」と埼玉トークで盛り上がった。

中盤はソーシャルエネルギーが枯渇してぼっちフィールドを展開してしまったが、自分にしては頑張って交流したほうだと思う。地道に、オフラインイベントに参加して、金沢・北陸地域での同業者の知り合いを増やしていきたい。

総括

この規模のイベントを企画・開催するのはパワーもいるだろうし、人を呼ぶ手配とか、色々大変だろうから一気にまとめてやりたい・呼びたいだろうなあとは思いつつ、ちょっと詰め込み過ぎかなあとも。ずっと座り続けでいささか疲れたし、休憩時間が短くてトイレ・一服もちょっと難しかった(最前列の席に座ったので途中入室したくなかったのもある)。RubyKaigi みたいな、やたらと発表の間の休憩時間が長いイベントに慣れてしまったせいもあるか。発表も、10 分枠は短過ぎたし、20 分枠ももっと長くて良かった内容。コマ数を半分に減らして時間を倍にし、2日間にしたらより充実した内容になったと思う。