統合失調症の姉と両親を、弟が長年に渡って撮影したドキュメンタリー。シネモンドで鑑賞。ミニシアターだが、意外に客が入っていた(10名強)。
統合失調症患者の言動というものを、はっきり「これがそうだ」と認識して見聞きしたことがなかったので、この目と耳で認識しておきたいと思った、のが観た動機。
どうすればよかったか、なんて他人が後から何を言えるはずもない、が「もし自分の身に同じようなことがおきたら、どうするか?」は考えさせられた。答えは簡単には出ない。
傍目には明らかに異常な様子の姉のことを全面的に肯定し、弟の進言を「姉のことを考えていないからそんなことが言えるのだ」と拒絶する母が、姉よりも衝撃的だった。自宅に高度な医学研究設備を揃えるほど熱心な研究者で、さぞや聡明だったに違いない人が、まったく正常で完全に意思疎通もできるにも関わらず、見ようによっては姉以上に異常な意見を信じて疑わない様子は、言い方は悪いが陰謀論者のようで薄気味悪かった。まともに会話が通じない相手のほうがまだ違和感が少ない。
「姉にステージ4の肺がんが見つかった」というテロップをみたとき、これまた不謹慎だが、ホッとした。治療を受け始めて異常さはほぼ無くなり、意思疎通も十分取れるようになったとはいえ、老いた両親が亡くなったあと姉が一人で自活していくのは厳しいのでは、と観ながら思っていたから。もちろん、そうなったら弟が面倒をみることになるのだろうけど、それもきつい。弟には弟の人生があり、姉のために残りの人生を捧げろというのは無理がある。姉に対する責任という点では、両親とは大きな違いがある。両親は、親であるだけでなく、過去から現在に至るまでの姉のあらゆる面に極めて重い責任があるのだから。その後、「父が脳梗塞で倒れる」というテロップをみては、どちらが先なのか、姉が先であってくれ、そのほうがこの家族にとって幸せなのではないか、などと無責任なことを考えていた。
年齢的なものも当然あるとは思うし、病気の影響もあったのかもしれないが、治療を受けるまでの姉は数年経っても見た目の変化が少なかったのに、治療を受けて身の回りのことを自分でやったり外出したりと活動的になってから急に老け込んでいったのは、なんだかやるせなかった。もっと早くこういう生活を、人生を送らせてあげられればよかったのかな、それでも何がどう変わるわけでもなかったのかな、などと、グルグル。