15年暮らした東京都杉並区久我山から、妻の実家がある石川県金沢市に引っ越した。
いずれは金沢に移住しよう、という話はしていたが、定年退職後とか、何十年も先になると思っていた。ところがここ数年で状況が変わった。妻が仕事を辞め、おれはフルリモートの仕事に就いた(コロナ前からフルリモートだったポジションなので、コロナ移住ではない)。通勤が不要になり、東京都内はおろか首都圏に住む必要もなくなった。ならば予定を大幅に早めてすぐ移住してもいいのでは?去年くらいからそう思い始めた。
仕事による生活圏の縛りが無くなった以外にも、移住したかった理由がいくつかある。金沢には妻の母が一人で、いや猫一匹と同居していて、妻とはとても仲が良いこともあり、やはり寂しそうで気掛かりだった。自分達が飼っている二匹の猫にも、もっと広くて快適な住処を与えたかった。杉並区の部屋は猫二匹と人間二人が暮らすには狭く、特に上の猫は二匹目を迎え入れてからややストレスを感じていそうでもあり、気になっていた。上の猫はシニア期に差し掛かりつつあり、負担をかける引越しは高齢になる前に済ませておきたかった。これら家族の便益に加えて、空が広く自然や街並みが魅力的な金沢の街におれ自身も暮らしてみたかった。
ペット可の賃貸物件がなかなか見つからず、妻の実家をリフォームして同居するしかないかとも考えたが、一年に及ぶ妻の部屋探しの執念が実ったのかたまたま妻の実家から徒歩圏内に条件を満たす部屋が見つかり、妻が入念に内見・不動産屋とやり取りしたのちおれも日帰りで内見してその場で入居を決めた。
杉並区では同じアパートに15年住んだ。杉並区にもこの部屋にも、まさかこんなに長く住むとは思わなかった。駅から徒歩二、三分と近く、久我山は閑静な街で居心地もよかった(近年は俗っぽい店ができたりして雰囲気が変わってきたが)。何かきっかけがないとうっかり一生住みかねなかったので、適当なタイミングで踏ん切りがついてよかった。さすがに15年も暮らすと愛着も湧き、東京を離れる一週間ほど前からはしんみりした。名残を惜しむ時間はあったので、退去日当日にがらんどうになった部屋をあとにするときは感傷的にならずに済んだ。大家さんと不動産屋さんは良くしてくれた。特に、猫を飼わせてくれたのは大きかった。良く通った店など、顔馴染みになった人々との別れはやはり少々寂しい。
引っ越し後しばらくは妻の実家に滞在するので、本当の意味で新生活が始まるのは少し先のことになるけど、どんな暮らしが待っているのか、年甲斐もなくワクワクしている。人生の新章が始まる。