@kyanny's blog

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なぜ働いていると本が読めなくなるのか

少し前にSNSで話題になっていた本。最近読書ができていなかったので、身近なテーマだと思って読んでみた。数ヶ月ぶりに読了できた本。

人々は本を読む余暇・余裕もなくなるほど全身全霊で仕事しており、そういう態度を称賛する文化や社会の仕組みがそうさせているが、そういう生き方は燃え尽きのもとであり健全とはいえないので、仕事でも趣味でも読書でもなんでも「半身」でやりませんか、というのが本書の結論。

それに至るまでに、そもそも近現代の日本において読書はどういう位置付けだったのかをたどるのに七割がたのページを割いていて、それ自体は面白い研究として読めたが、結論との結びつきが弱く、結論への持っていき方が強引で、唐突なまとめ方だと感じた。「読書の歴史」パート全部無くても良かったのでは。それだとページ数が足りず書籍にできないとは思うが。

全身で仕事に打ち込む風潮、それを助長する社会の仕組みをどのように変えていくかの具体的なアイデアはないけど「まずはあなたから、私たちから働き方、生き方を変えていきましょう」という提言で終わっているのは、確かに一人一人が自ら変わっていくことが大事だなと一定の納得感はある一方で、現代の資本主義・新自由主義(自己責任と自己実現)が変わらないまま自分だけが仕事を「半身」でし始めれば、単に競争から降りて負けるだけであり、いわゆる「勝ち組」でなければできないじゃん、と白けた感想も同時に持った。

自分が新自由主義的な思想に相当染まっている・それを内面化していることに気づいたのが一番の収穫だったかもしれない。二十代の半ばくらいからごく自然に「自己責任、会社は守ってくれない、自分の人生は自分で切り開く」という価値観を持っていて、クローン病になったことで人生観が大きく変わったことがきっかけだと思っていたが、実は単に世の中の価値観の変遷に知らずと巻き込まれていただけなのかもしれない。

平易な文体でさらっと読みやすいが、同じ内容を何度も繰り返し書いたりして冗長だった。論説調の本ではなくて、エッセイとかならちょうどよさそう。あとがきは文体と内容がよく合っていると感じた。