マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの分業と共業による営業プロセス、レベニューモデルについて説いた本。
The Model というのは著者が米 Salesforce 本社で学んだ「型」を日本支社に持ち込む際に「例のやつ」的な感じで呼んでいた仮称のこと。
インサイドセールスとカスタマーサクセスの役割について知りたくて読んだ。仕事柄、社内でそのポジションの人たちとのやりとりがたまに発生するのだけど、特にインサイドセールスについては肩書きも複数あってそれぞれの仕事内容やそもそも営業と何が違うのかもわからなかった。役割の違いくらいは把握しておきたいと思い、知識をつけるのが目的で、この本の本来の想定読者からはズレていたと思う。
著者はオラクルからセースルフォースを経てマルケト日本法人の社長をやった人で、B2B・IT・営業・日本支社というカテゴリで一貫してキャリアを積んできた人。本の半分くらいはマルケト時代の経験談で、「へえ」と思うエピソードもいくつかあったけど、よくある成功者の武勇伝っぽさもあり、自分の役に立つ感じはしなかった。外資の日本法人のカントリーマネージャーとかになりたい人には大いに参考になるのかも。
肝心のインサイドセールスとは何かという点については、従来の営業(フィールドセールス)との対比やマーケティングとの関わり合いなど要点を押さえつつ、必要以上に細かすぎない絶妙な粒度で説明されていて、とてもわかりやすかった。同じタイミングでインサイドセールスに関する本を他にも買って読んでるのだが、先にこの本で概要をつかんでおいてよかったと思う。さすがインサイドセールス発祥の地で薫陶を受けた第一人者だけのことはある。
この本で最も重要なページを挙げよと言われたらこの図を挙げる。
- SR = Sales Representative マーケティングから渡されるリード(見込み顧客の連絡先のこと)にコンタクトして脈がありそうなら商談として営業(フィールドセールス)に渡す役割。うちの会社では SDR = Sales Development Representative という肩書きで呼ばれてる。
- EBR = Enterprise Business Representative インサイドセールスの一種だがリードが渡されるのを待たずにターゲット企業に自らコンタクトをとって商談を作り営業に渡す役割。主に大企業の役職者などに絞って営業をかける。オンライン飛び込み営業。
- AE = Account Executive いわゆる営業(フィールドセールス)。顧客を訪問して商談をまとめる。大手企業担当と SMB = Small Medium Business 中小企業担当で分かれる。
- CSM = Customer Success Manager 受注後の顧客をフォローして、製品の利活用を促進し、サブスクリプション型サービスの継続利用を目指す。
インサイドセールスで経験を積み、フィールドセールスにキャリアアップしていくというキャリアパスにもなっているらしい。SR (SDR) が相対するのはリードで、そもそも自社製品に関心がある相手。なので経験が浅くても務まりやすい。EBR になると関心を持ってない相手に関心を持たせるスキルがいる。SMB の AE になると商談をまとめて受注するクロージングのスキルを磨き、やがては大企業の AE として大きな商談をまとめていく。
一方、カスタマーサクセスについての説明は相対的に浅く、やはり営業出の人の守備範囲ではないのだろうなと感じた。カスタマーサクセスについては本もいろいろ出ているので、別のを当たったほうが良さそう。
序文がこの本読むのやめようかと思うほど退屈(要は著者紹介なのだが、それに至るまでが長すぎる)なのと、「外資で働く社長の告白」みたいなのがやや白けるが、知りたい内容については期待通りに知れたので星四つ。
その他、ハイライトした箇所など
人間はグループに分けられたとたんに敵対しやすい生き物であるということ。そして、対立する2つのグループの関係を良好なものにするためには、単に接触回数を増やしたり、コミュニケーションの内容を改善するだけではなく、共同で作業をすることによって達成可能な共通の目標が有効だということである。
チームであろうが個人であろうが、自分が何で評価されるかによって人の行動が変わるのは万国共通だ。
すべての始まりは売上である。そうであるなら、社員や各部門が売上を上げるためのプロセスをいかに正しく理解し、それに向けて共同作業をする組織づくりができるかが鍵になる。
キャリアの最初からずっと開発畑で過ごしてきた自分にはこういう感覚は皆無でそもそも売上と利益の違いすらろくに意識してこなかったが、顧客サポートの仕事をし始めて会社内の組織的にも営業組織の傘下にいることで多少意識が変わり、こういう一文をハイライトするようになった。
よく、インサイドセールス部門は営業の下でもマーケティングの下でもなく、独立した組織として存在するべきだとか、これからはマーケティングが中心となり、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に大きな権限を持たせるべきだと言う人がいる。私にはどちらの議論もあまり意味があるとは思えない。部門が対等だとか、誰が中心になるべきという議論は顧客不在の議論だからだ。
↑と言うわりに、この一文は「チーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)がリードする時代」という見出しの中にあり、「どちらも意味があるとは思えない」に矛盾してると思う(著者の主張は「CMO より CRO に大きな権限を持たせるべき」と読めるので)
経営層は全社の経営課題に取り組むが、部門長は自部門の範疇で優先順位を考えがちだ。担当者になると、いかに予算内で管理するか、自分の業務が楽になるかという狭いものの見方になりやすい。また、経営層は経営課題に取り組むため、必要なリソースや予算を確保するために動くが、部門長は与えられた予算の中でやりくりを考え、担当者は割り当てられた予算を消化することを考える。
Quipper 時代(買収後)に、当時の CEO がサブスクリプションモデルのことを書いた本に感化されて、その著者が Zuora の創業者で、なので「課金システムのバックエンドを Zuora に切り替えたほうがいろいろ利点があるのではないか」と言い出し、全部門の部長陣を巻き込んで Zuora から営業を受けたことがある。このときの部長陣の対応がまさにこんな感じで、身につまされた感覚を思い出した。
組織の上位マネジメントの仕事は、チーム内、部門内でお互いのリスクをカバーしながら、最終的に会社全体の目標を達成するチームプレイの意識を組織全体に植え付けることだ。自分のフォーキャストの数字しか知らないという営業部門は、継続して良いパフォーマンスは出せないし、強い営業組織にはなれない。
自分の役割はここまで」と限定するようなタイプや、周りの人を巻き込まずに自分一人で解決しようとする人には向かない仕事だ。
「カスタマーサクセスに向いている人材とは」という節内、「社内のハブになれる人が成功する」という項内の一文。おれはカスタマーサクセスマネージャーに向かなそうだな、と思った。役割云々はともかく、できるだけ他人に頼らず自分一人で問題解決したいので。
最近、注目を浴びている「セールスイネイブルメント(Sales Enablement)」は、ここに着目した役割で、ランプタイムが長い営業組織でニーズが高い。1人当たりのランプタイムを短くできれば、劇的に組織全体のパフォーマンス向上ができるからだ。
ナントカ Enablement/Enabler という名称の組織を社内で見かけて、ニュアンスはわかるけどイマイチピンときてなかったのだが、要は「バフ」をかけること、ドラクエにおけるバイキルト・タクティクスオウガにおけるクイックムーブを専門にやる役割なのだなと理解した。「ランプタイム」は、100% のパフォーマンスを発揮できるようになるまでに要する準備期間のこと。
この場合に最もやってはいけないことは、部門ごとに「課題を解決せよ」と言うことだ。
工場でボトルネックとなっている生産工程があるのに、その直前の工程を担当するマシンをフル稼働させてしまえば、仕掛品がどんどん積まれていくように、部分最適が全体の生産性を落とすことがある。
(営業プロセスの)ボトルネックを解消するには、という文脈で。局所最適化がかえって全体のパフォーマンスを落とすことがある、という話。
ビジョン・ミッション・バリューの話で出てきた図だが意味不明で、これ↓を連想した。
自社でバリューについて議論する時にお勧めなのが、「Customer Success」と「Raise the bar」のどちらが大事かというように、1つひとつの項目を比較して議論する方法だ。
これはすでにやったことがある。採用基準についてトレードオフスライダーを使って議論した - @kyanny's blog
そのため、マルケト日本法人は初期段階では営業を少数精鋭とし、コンサルタントやカスタマーサポート、プロダクトマネージャーなどの人材を採用した。顧客数をかなり拡大した段階でも、当時は1桁の営業しかいなかったので、社外の人からは「もっといると思ってました。そんなに少ないんですね」とよく驚かれたものだ。
また、顧客の成功を実現するためにポストセールスの強化は大切だが、レバーとして効果的だったのは、実はプロダクトマネージャーである。
組織を語る時、よく「プロフィットセンター」と「コストセンター」という分け方をされることが多いが、私はこのような分け方は好きではない。採用する役割については、常に「キャパシティ」と「レバー」という分け方をしている。
キャパシティ = 営業とかサポートとか、ビジネス拡大(レベニュー増加)のために人数を増やさないといけないポジション(のリソース合計)のこと レバー = キャパシティ効率を高める要素のこと
以前、採用面接で「私が今までやって来たことが本当に通用するのか、自分は井の中の蛙なんじゃないのかと不安になるんです」と言った人がいて、思わず「そう思わない人のことを井の中の蛙と言うんですよ」と話したことがある。
これはいいエピソードだった。
自分が成功するために必要だと思う人を採用すればいい。お前は、どこの会社の出身とかどんなタイプを採用するかを考えるのと、会社が成功するのとどっちが大事なんだ」と一刀両断。
採用において多様性をどう担保するべきかで著者が悩んでいたときメンターに言われた一言。
多様性はあったほうがいいし、その価値を否定するものではないが、違いというのは黙っていても自然に出てくるもの。むしろ共通の価値観を持った人たちがいかに集まれるかに焦点を当てるようにすることのほうが大切だ。
全くもって同感だ。個人はみな違い、したがって集団にはおのずから多様性が内在している。それを無理に画一的な価値観を押し付けて押さえ込んではいけない、というのが「多様性を尊重せよ」ということで、多様性は結果。目的にしてはいけない。
しかし、マネージャーが役職ではなく役割だとすれば、絶対に欠かせないマインドがある。それは、マネージャーになる前は自分自身が成長することに邁進するのに対して、マネージャーになった瞬間からチームのメンバーを成長させることに全力を注がなければならないということだ。
これなぁ。無理だなぁ。とあらためて思う。
一方で居心地のいい雰囲気を作り、耳障りのいいことばかり言っていても組織は強くならない。
同感、とともに、こういうのもすでに古い世代の価値観になりつつあるのかもな、と(おれだってもはやそういう世代に入ってる)
苦しい時にあわててはいけない。悪い状態を立て直すには時間がかかるから我慢が必要。でもその期間は3か月であって半年ではない」
会社の強さは営業に表れるが、会社の品格は購買に表れる」
テーブルに置いてあったどら焼きをおもむろに手に取って3個並べると「お前は、この3個を5個に増やそうとする時に、ちょこちょこ増やそうとするからダメなんだ。2個増やしたと思ったら1個消えてまた4個になる。その繰り返しでいつまで経っても5個にならない。Hire & Fireじゃダメだ。3個を5個にしたければ、まずどんと10個まで増やせ。そしたら2個くらい減っても8個になる」
著者がマーク・ベニオフ直々に採用計画の遅れにダメ出しされたときのエピソード。
他にもいくつかあるけど、Kindle のコピー制限にひっかかって引用するのが面倒くさくなったのでこのへんで。
コピー制限回避の秘策、ハイライトした文字列で本を検索→検索フィールド内のテキストをコピー、で全部引用し終わった。めんどうくさかった。